「ただいま。」夏川清未は彼らが入ってくる音に気づかず、振り向いて一瞬驚いた後、道乃漫の変化に気づいた。
道乃漫の顔に漂う色気は、隠しようがなかった。
夏川清未は経験者だから、当然わかる。
昨日、道乃漫が神崎卓礼のところに彼の世話をするために残ったことは、夏川清未も知っていたし、それについても心の準備はできていた。
神崎卓礼があんなに道乃漫にくっつきたがっている様子で、道乃漫が自分から彼の巣穴に入っていったのだから、彼が手を出さないわけがない。
夏川清未はそれを心の中でわかっていたが、口には出さなかった。
道乃漫は大人になった。自分でわかっているはずだ。
道乃漫が嫌がれば、神崎卓礼の道乃漫への溺愛ぶりからして、彼女を無理強いすることはないだろう。
これは間違いなく道乃漫自身が望んだことだ。
道乃漫が決めたことなら、彼女も何も言うつもりはない。
以前は道乃漫が男性にあんなに不信感を持っていたのに、神崎卓礼と一緒になってから、道乃漫はどんどん良くなっていった。道乃漫自身も気づいていないかもしれないが、最初の頃から彼女は神崎卓礼を信頼していた。
今では完全に心を開き、自分自身を神崎卓礼に委ねるまでになったのは、過去の影から抜け出したということだ。
これらすべては、神崎卓礼のおかげだ。
夏川清未はとても嬉しかった。道乃漫が過去に囚われることなく、自分の人生を生きられるようになったことを。
「早く手を洗って座りなさい。料理はすぐできるから」と夏川清未は笑いながら言った。
道乃漫は上着を脱ぎ、手を洗うと、神崎卓礼の料理を運ぶのを手伝った。
食事中、道乃漫は映画の撮影に行くことについて夏川清未に話した。「お母さん、私、撮影に行きたいの」
「行きなさい、もちろん行くべきよ」と夏川清未はきっぱりと言った。「あなたが演技を学んだのは、演じるためでしょう?仕事があるなら当然撮影すべきよ。それにあなたの言う通り、高木監督がいなければ、この業界に入れなかったわ。彼があなたをこの業界に導いてくれたんだから、彼が助けを求めてきたら、それも不当な要求じゃないなら、当然助けるべきよ。お母さんはあなたを応援するわ。私のことは心配しないで。前に『貪狼作戦』の撮影に行った時みたいに、私はここでちゃんとやっていけるし、神崎もいるしね」