「うん」橋本奈奈は心が冷えていき、淡々と答えた。「お腹いっぱいだから、部屋に戻るわ」
「ああ、家では誰も邪魔しないから、しっかり復習してくれ。お父さんは君ならうまくやれると信じているよ」橋本東祐は今や、白洲隆の勉強を見ることが奈奈自身の学習の妨げになる可能性があることを知っていた。
木下家にいた時は、奈奈は自分の勉強に集中できなかったが、橋本家では可能だった。
そのため橋本東祐は、伊藤佳代と橋本絵里子に対して、家にいる時は二人とも奈奈の邪魔をしてはいけないと命令し、特に佳代は奈奈に家事をさせてはいけないと言い渡した。奈奈にはしっかり復習させるためだった。
これも橋本東祐が間接的に奈奈への償いをしているようなものだった。
奈奈ができないなら、橋本絵里子が手伝うしかなかった。ちょうど絵里子も伊藤佳代に聞きたいことがあった。「お母さん、さっきなんで私を止めたの?」
「普段は賢いのに、どうしてこんな時に馬鹿なことを言うの」伊藤佳代は身をかがめて外を覗き、橋本東祐と奈奈が自分の部屋にいて出てこないことを確認してから、声を潜めて言った。「白洲隆の性格はよくないわ。団地の中で彼と遊んだ子供たちは、みんな彼にいじめられたのよ。そんな人と一緒にいて、奈奈に何か良いことが学べるの?勉強も復習も、白洲隆が奈奈の言うことを聞くはずがないでしょう。奈奈の言葉が広まれば、今度の中学受験で成績が悪くなったら、それは全部あなたのお父さんが招いたことになるわ。お父さんは私たちを責められないでしょう。奈奈の成績が下がれば、私には奈奈を働かせる方法があるわ。これからは私たち三人で、あなたを大和の最高の大学に行かせるのよ」
「そうは言っても」橋本絵里子は不満そうに唇を噛んだ。「でも、お母さん、もう一度考えてみて。木下おじいさんはいい人だし、お父さんの親友の戦友だったから、おじいちゃんが亡くなった後も、木下おじいさんはお父さんをすごく助けてくれたじゃない。もし奈奈が白洲隆の勉強を見るために自分の成績を落としたら、木下家と白洲家が奈奈を放っておくと思う?最悪の場合でも、奈奈が勉強したくないって言って働きたいなら、木下おじいさんが一言言えば、奈奈はどんな仕事でも手に入るんじゃない?」