質問を終えると、橋本絵里子は大体分かったような気がして、ほとんど水に触れていない手を振り、立ち去ろうとした。
橋本絵里子が急に振り向くと、橋本奈奈がコップを持って裏口に立っていて、真っ直ぐに自分を見つめているのが目に入った。絵里子は驚いて悲鳴を上げ、心臓が喉から飛び出しそうになった。「な、奈奈、あ、あなたどうしてここに?」
さっき母親と話していたことを、奈奈はどこまで聞いていたのだろうか。
橋本奈奈の突然の出現に、橋本絵里子だけでなく伊藤佳代も驚いて固まってしまった。
やったことはやったこととして、伊藤佳代のような人でも、面と向かって言えることではないし、特に橋本奈奈の前で認めることなど、このような無防備な状況ではなおさらだった。
「水を飲みに来ただけよ」橋本奈奈は手のコップを軽く上げ、そして淡々と橋本絵里子を一瞥した。「いけない?」
「そんなわけないでしょう」橋本絵里子は気まずそうに笑った。彼女が気にしているのは全然そういうことではなかった。「奈奈、私が水を入れてあげようか?」
泥棒は心が虚しいというように、伊藤佳代から突然真相を聞かされ、橋本絵里子は橋本奈奈に対して一瞬心が揺らいだ。
「結構です」橋本絵里子の親切な申し出に、橋本奈奈は喜ぶどころか、全身に鳥肌が立った。
二度の人生経験から、橋本絵里子が少しでも優しい態度を見せるときは、必ず何かを求めていて、自分から利益を得ようとしているのだと分かっていた。
だから、橋本絵里子が毎日冷たく高慢な態度を取る方が、笑顔で接してくるよりもまだましだった。
橋本奈奈が水を汲んで出て行くまで、橋本絵里子は伊藤佳代に尋ねた。「お母さん、さっき私たちが話していたこと、奈奈は聞いていたのかしら?」
「聞いていないはずよ。聞いていたら、あんな反応するはずないでしょう?」伊藤佳代もほっと胸をなでおろした。
「よかった」橋本絵里子は胸をなでおろした。さっきは橋本奈奈の突然の出現に死ぬほど驚いた。
伊藤佳代は橋本奈奈に対して何も恐れることはなかったが、橋本絵里子にはそんな自信はなかった。まだ橋本奈奈という「妹」を完全に失いたくなかったのだ。