この人生で、重要なことに関しては、もう一歩も引かない。たとえ父親に対してでも、譲歩はしないつもりだ。
だから今日のような些細なことは、橋本奈奈は橋本絵里子の最後の願いを叶えてあげるだけだと思っていた。
橋本奈奈は橋本絵里子よりもずっと手際よく働いた。絵里子が皿洗いを終える前に、奈奈は既に掃除を終え、ゴミまで出していた。
「もういいわ、皿洗いはやめて」野菜を洗っていた伊藤佳代は、絵里子が洗った皿が全然きれいになっていないのを見て頭が痛くなった。この皿を絵里子が洗い終わったら、また洗い直さなければならないと思い:「私と交代しましょう。あなたは野菜を洗って、私が皿を洗うわ」
汚れた野菜を見て、橋本絵里子は少し気が進まなかったが、それでも伊藤佳代と仕事を交代した。
しかし、橋本絵里子が野菜を洗っているときに、毛むくじゃらで柔らかいものに触れ、それを見た瞬間叫び声を上げた:「お母さん、お母さん、虫がいる、虫がいる!」
橋本家では、むしくんはおろか、ゴキブリさえほとんど見たことがなかった。
そして家にゴキブリが出るたびに、橋本絵里子は少し避けるだけで、家族の三人が自然とそういうものを処理してくれた。
「野菜に虫がいるのは当たり前じゃない?」伊藤佳代は頭が痛くなった。半日しか仕事をしていなかったが、伊藤佳代は慣れていなくて、ひどく疲れていた。
家に帰っても一息つく暇もなく、絵里子はさらに問題を起こし続けた。たかが虫一匹で、なぜそんなに大騒ぎするのかわからなかった。
「どうしたんだ?」橋本東祐が近寄ってきて見た:「どんな虫だ?」
橋本東祐は水の中の野菜に確かに虫が這っているのを見て、状況を理解した。
「たかが虫一匹じゃないか、怖いなら箸で取り除けばいいだけだ」橋本東祐は手際よく虫を捕まえて捨てた:「こんなに慌てふためいて大騒ぎするものじゃない。この点では、奈奈を見習わないとな。奈奈は七、八歳の頃から、もう母さんの家事を手伝っていたんだぞ。田中さん、絵里子だって女の子なんだから、奈奈だけを教えて絵里子を教えないのはよくないだろう。前に、これは全部絵里子もできるって言ってたじゃないか?」
以前、橋本奈奈が伊藤佳代の手伝いをするたびに、橋本東祐はなぜ長女がやらないのかと尋ねていた。