第048章 もう譲らない

橋本奈奈が橋本家に戻ってきたとき、橋本絵里子が一人でベッドに座って呆然としているのを見かけた。そして、自分の部屋は散らかり放題で、明らかに誰かに荒らされた形跡があった。

橋本奈奈は口角を歪めて冷笑し、聞くまでもなく橋本絵里子が何をしたのかわかっていた。

橋本奈奈は何も言わず、橋本絵里子が散らかした部屋を簡単に片付けてから、黙々と本を読み始めた。

橋本奈奈がこれだけ動き回っているのに、橋本絵里子は我に返らず、橋本奈奈が二ページ分の復習を終えるまで、突然声を上げた:「きゃっ、いつ帰ってきたの?声もかけないなんて、人を驚かせたら死んじゃうでしょ!」

橋本絵里子は目の前に突然「現れた」橋本奈奈に完全に驚かされ、橋本奈奈以上に大きな反応を示した。

橋本奈奈は目を白黒させた:「私が自分の部屋を片付け終わったのに、いつ帰ってきたかなんて聞くの?」

「あのね...」橋本絵里子は気まずそうに笑った:「私、何か落としちゃって、どうしても見つからなくて、だから部屋を散らかしちゃったの。でも後で見つかったから、ごめんね奈奈」

「大丈夫よ、もう片付けたから」橋本奈奈は一字一句はっきりと言った。物を探していたのか、お金を探していたのか、お互い分かっているはずだった。

「絵里子、ただいま」伊藤佳代の疲れた声が聞こえてきた。

「お母さん!」橋本絵里子の目が輝き、すぐに橋本奈奈の部屋から飛び出して伊藤佳代を迎えに行った:「お母さん、今日仕事見つかった?」

「見つかったわ」伊藤佳代は苦労して体についた埃を払った。

伊藤佳代は長年専業主婦をしていたため、突然社会に出て、仕事を探すことに恥ずかしさを感じていた。

普段は人と接するのが普通にできる伊藤佳代だったが、仕事を探し始めると、まるで口に糊でも付いたかのように、なかなか口が開けなかった。

伊藤佳代のこのような状況では、やっと仕事が見つかったとしても、楽な仕事であるはずがなかった。

半日働いて、伊藤佳代はようやくお金を稼ぐことがどれほど大変か、以前の自分がどれほど幸せだったかを実感した。

「絵里子、どうして家の中を全然片付けてないの?」伊藤佳代は家に入るなり、不機嫌になった。