第087話 新しい服

「それはよく分からないわね。彼の実際の成績次第ね」橋本奈奈も大きな口は叩かなかった。この半年間、白洲隆は真面目に勉強していたと感じていたけれど。

この世の中には、普段の成績は良くないのに試験になると頑張れる人、普段は良いのに試験になると失敗する人、そして普段も試験も変わらない人、この3つのタイプがいる。

白洲隆がどのタイプなのか、橋本奈奈にはわからなかった。

「大丈夫だよ。試験の前に、特別指導をして問題を解かせてあげれば、なんとか合格点は取れるでしょう」橋本東祐の要求はそれほど高くなかった。前回は不合格だったから、今回合格すれば上出来だ。

「それは大きな問題ではないと思います」

「問題ないなら、そんなに自信があるなら、それは良かった」橋本東祐の顔に喜びが浮かんだ。隆が合格点を取れれば、それはかなりの進歩だろう?

「奈奈、お正月に欲しいものはある?パパに言ってごらん、買ってあげるから」橋本東祐は珍しく気前が良かった。

「パパ、私、自分の新しい服が欲しいな」今年は、もう橋本絵里子のお下がりを着たくなかった。

いつも橋本絵里子が着なくなった服をもらっていたことを思い出し、橋本奈奈は自分が哀れに思えた。

「いいよ!」橋本東祐は一瞬驚いたが、すぐに確実に橋本奈奈の願いを承諾した。「試験が終わって休みになったら、街に連れて行ってあげる。好きな服を選んでいいよ、どう?」

「うん」

「何がうんよ、買っちゃダメ。家にはたくさん服があるでしょう。お金を無駄遣いしないで」伊藤佳代が口を開くと、雰囲気を壊す言葉を発した。「お姉ちゃんの服がたくさんあるじゃない。まだ十分着られるわ。本当に欲しいなら、いくつか出してあげるから、2着選びなさい」

言い終わると、伊藤佳代は心配そうな顔をした。後でよく考えなければならない、この服の中で、どれが絵里子がここ数年着たがらなかったものなのか。

もし絵里子の気に入っている服を橋本奈奈にあげたら、絵里子がきっと怒り出すだろう。

「私が買うんだ。あなたのお金は使わないよ。奈奈のことは、あなたが口を出す必要はない」伊藤佳代の考えを知っていた橋本東祐は、橋本奈奈の前で伊藤佳代を叱りつけるのは気が引けた。