「この二つのお年玉のお金は、お母さんが管理してあげるから、大きくなったら一緒に返してあげるわ」
そう言いながら、橋本奈奈の同意を得ることもなく、二つのお年玉を探り出そうとした。
「いりません。自分で管理します」奈奈はドジョウのように滑らかに、体をひねって伊藤佳代の手から逃れた。
お金を母親に渡したら、死ぬまでこのお金に触れることはできないだろう。それに、このお金には使い道があるのだ。
「お父さん、ご飯食べ終わったから、部屋に戻ります!」この家の雰囲気では、橋本絵里子と母親と一緒に春節晩会を見る気にもならなかった。
「どうぞ」橋本東祐も二言は言わなかった。せっかく四人家族で仲良く一緒にテレビを見られると思っていたが、その気持ちも伊藤佳代の先ほどの行動で完全に消え去ってしまった。
もういいだろう。
奈奈を田中さんと一緒に座らせたら、田中さんのこの性格では、母娘の対立がますます大きくなるだけだ。阿弥陀仏と言うしかない。もはや融和なんて話ではない。
そうして、他の家では賑やかな大晦日も、橋本家では伊藤佳代一人がテレビを抱えているだけで、橋本絵里子も部屋に戻り、「勉強」すると言った。
広々としたリビングで、ただ一人寂しく過ごす伊藤佳代は、今年の春節晩会で何が演じられたのかさえ分からなかった。
数日間徹夜していたせいで、十日も経たないうちに、すでに元気のなかった伊藤佳代はもう持たず、あくびをして力なく部屋に戻った。
しかし、大きなベッドに二つの布団があり、橋本東祐が一つを使い、空いているもう一つは明らかに自分用だと分かった時、伊藤佳代は何故か心が冷え込むのを感じた。
二人は二十年近く夫婦をしているが、この前の喧嘩で別々の布団で寝た以外、いつも一つの布団で寝ていた。
橋本さんが今このようにするのは、一体どういう意味なのか?
伊藤佳代には、外で吹き荒れる冷たい風よりも、家の中の方が寒く感じられた。
しばらくして、伊藤佳代は足も洗わずに、靴を脱いで布団に潜り込み、しかも意図的に橋本東祐に背を向けた。
奈奈に優しくしないからって、私は絶対に奈奈に優しくなんてならない。私が奈奈に優しくする必要なんてないわ。
人生の大半を苦労して、全てはこの家のため、橋本さんのためだったのに、橋本さんは奈奈のためにこんな扱いをする、本当に薄情な人だわ。