翌日、斎藤昇は橋本奈奈が来るのを見て眉をひそめた。「昨日は家でゆっくり休むように言ったのに、どうしてまた来たんだ?」
「も、も、もう大丈夫です」橋本奈奈はつま先を地面につけながら、時々自分の椅子の方をちらちらと見ていた。
昨日はズボンがめちゃくちゃになってしまったから、この椅子は……
椅子がきれいになっているのを見て、橋本奈奈はこっそりとほっとした。「斎藤お兄さんは心配しなくても大丈夫です。私は元気です。たぶんこの一年で体調が良くなったんだと思います。斎藤お兄さんは本当に思いやりがあって、斎藤お姉さんは幸せですね」
斎藤お兄さんがこんなにいろいろなことを知っているのは、きっとお姉さんの世話をしてきたからだろう。
昔どこかで聞いた話だけど、妹がいる兄は世界で一番優しい兄で、弟がいる姉は世界で一番短気な姉だそうだ。
斎藤お姉さんは斎藤お兄さんのような優しい弟がいて、本当に幸せ者だ。
「……」斎藤昇は唇を引き締め、隣の椅子を引いた。「本当に大丈夫なら、座って勉強しなさい。時間を無駄にしないで」
橋本奈奈の小さな顔は赤らんでいた。それが演技なのか本当に問題ないのか、斎藤昇にはわかっていた。
橋本奈奈の様子に問題がないことを確認して、斎藤昇は彼女を追い返すことはしなかった。
さっきまで大丈夫だと言い張っていた橋本奈奈だったが、その椅子を見た途端、足がすくんでしまった。
今日早朝に斎藤家に来たのは、実は勉強するためではなかった。昨日の生理が椅子についてしまったのではないかと心配で、もし汚れていたら、こっそり拭き取ろうと思っていたのだ。
数日経って気まずさが和らいでから、また斎藤家に来て勉強しようと思っていた。
でも、まさか斎藤お兄さんがこんなに早く来ているとは思わなかった。
「ぼーっとして何してるの?座りなさい」橋本奈奈がぼんやりと動かないのを見て、斎藤昇は眉をひそめて叱った。
「はい!」斎藤昇に声をかけられ、橋本奈奈は何も考えずに斎藤昇の隣に座り、昨日と同じ姿勢をとった。
二つの椅子がこんなに近いのを見て、橋本奈奈の目に迷いが浮かんだ。