橋本奈奈は手元の紙を見て笑った。「斎藤お兄さん、ありがとうございます」と言って、その紙を丁寧に大切にしまった。
「じゃあ、行くよ」と言い残して、斎藤昇は敷地を出た。門を出るとすぐに、一台の車に乗せられて行った。
「大野さん、あの男が行きましたが、今からあのお嬢ちゃんを片付けましょうか?」一見立ち去ったように見えた大野宏たちは、実際には角の陰に隠れて、橋本奈奈と斎藤昇を見張っていた。
大野宏は顔色を変えた。もし彼の目が正しければ、斎藤という男は車に乗る前に、この方向を一瞥したのだ。
彼の両親も祖父母も前から言っていた。この敷地内には多くの子供がいるが、誰を敵に回してもいい、ただし斎藤昇だけは絶対に敵に回してはいけないと。
誰に気に入られても構わないが、斎藤昇に弟として認められることこそが、彼の本当の実力だった。
小さい頃、大野宏も努力したが、斎藤昇には一目で見抜かれてしまった。どんなに取り入ろうとしても、斎藤昇は彼に良い顔も、良い言葉も一度もくれなかった。
時が経つにつれて、大野宏も悟った。斎藤昇の気に入られることは不可能なのだと。
好かれることができないなら、せめてもっと嫌われないようにしなければならない。そのため、大野宏はよく斎藤昇を避けて通っていた。
大野宏がここに隠れていたのは、斎藤昇と橋本奈奈の関係を確かめたかったからだ。
もし斎藤昇と橋本奈奈が顔見知り程度の関係なら、橋本奈奈が彼の計画を台無しにし、白洲隆を更生させようとするなら、大野の名が廃るまで橋本奈奈を許さないつもりだった。
しかし状況は変わった。斎藤昇が去る前の一瞥には、警告の意味が込められていた。大野宏は馬鹿ではない、それを理解した。
つまり、大野宏が橋本奈奈の髪の毛一本でも触れば、それは斎藤昇に敵対することになる。大野宏はそれを考慮しなければならなかった。
橋本奈奈は斎藤昇という後ろ盾を得た。大野宏にはもう橋本奈奈に手を出す勇気はなかった。
「片付けるもんか、行くぞ!」大野宏は顔を真っ赤にして怒った。今日これらの連中を呼ぶのに、かなりの金を使ったのだ。
結局何もできず、金だけ無駄遣いしたことに、大野宏は心を痛めた。
いけない、帰ったら別の方法を考えなければならない。絶対に白洲隆が更生するのを許すわけにはいかない。白洲家の全てを手に入れなければならないのだ。