第110章 誰が誰を治めるか

「どうしたの?」橋本東祐が木下おじいさんとの会話を終えて出てきたとき、橋本奈奈の顔色が良くないのに気づいた。

「何でもないわ、ちょっと風に当たって気分が悪くなっただけ」橋本奈奈は首を振って、白洲隆と大野宏のことについては橋本東祐に話さなかった。この件は話せるようなものではなかった。

「そうか、家に帰ったら生姜湯を作ってやるから、辛くても飲んで汗を出せば良くなるよ」

「うん、お父さん、帰りましょう。お母さんとお姉ちゃんも帰ってるはずだし」

「……」妻と長女の話が出た途端、橋本東祐のさっきまでの良い気分は台無しになった。「あの二人のことは気にするな。奈奈、さっき木下おじいさんがくれたお金は、しっかり保管しておくんだぞ。どうしても心配なら、前に本を置いていた場所に置いておけ。絶対に家には置くなよ。お前のお母さんとお姉ちゃんは……」

お正月だからこそ、橋本東祐は縁起でもない言葉を言いたくなかった。そうでなければ、妻と長女は病気だとか、頭がおかしいとか言いたかった。

家にお金が少ないことを知っているのに、このお正月に毎日遊びに出かけている。

田中さんが毎日絵里子と一緒に出かけて、一銭も使わないはずがないと思った。

正月で仕事がないから収入がないのに、支出は一日も欠かさない。橋本東祐はもう伊藤佳代と橋本絵里子のことを構いたくなかった。

とにかく決心はついていた。新学期が始まって橋本絵里子の学費が足りなくなっても、絶対に面倒は見ない。田中さんが絵里子を甘やかすなら勝手にすればいい。彼は甘やかすつもりはない。

田中さんを甘やかすことは母娘を甘やかすことと同じだ。そんなことはできない!

木下おじいさんの影響で、橋本東祐が伊藤佳代と橋本絵里子に対してこのような決心をしたことを知らない橋本奈奈は、この時、白洲隆のことばかり考えていた。

白洲隆が更生するのを妨げるため、彼女が白洲隆に少しでも良い影響を与えただけで、大野宏は仲間を連れて彼女を取り囲みに来た。

想像できることだが、普通の、白洲隆を良い方向に導けるような友達は、大野宏は絶対に白洲隆に持たせないだろう。

だから白洲隆が以前団地で評判が悪かったのも納得だ。多くの人が白洲隆は悪い子だと言っていたが、おそらくすべての問題は大野宏にあったのだろう。