「どうしたの?」橋本東祐が木下おじいさんとの会話を終えて出てきたとき、橋本奈奈の顔色が良くないのに気づいた。
「何でもないわ、ちょっと風に当たって気分が悪くなっただけ」橋本奈奈は首を振って、白洲隆と大野宏のことについては橋本東祐に話さなかった。この件は話せるようなものではなかった。
「そうか、家に帰ったら生姜湯を作ってやるから、辛くても飲んで汗を出せば良くなるよ」
「うん、お父さん、帰りましょう。お母さんとお姉ちゃんも帰ってるはずだし」
「……」妻と長女の話が出た途端、橋本東祐のさっきまでの良い気分は台無しになった。「あの二人のことは気にするな。奈奈、さっき木下おじいさんがくれたお金は、しっかり保管しておくんだぞ。どうしても心配なら、前に本を置いていた場所に置いておけ。絶対に家には置くなよ。お前のお母さんとお姉ちゃんは……」