斎藤昇がスープを持って立ち去る様子を見ていた橋本奈奈は、何か違和感を覚えたが、斎藤昇の落ち着いた表情を見ると、嘘をついているようには思えなかった。
「あぁ、斎藤お兄さんに言い忘れちゃった。でも、この方法が上手くいくかどうかも問題ね」二万円の借金のことを思い出し、橋本奈奈の綺麗な顔がしわくちゃになった。
ため息をついた後、奈奈は斎藤昇が残していった鶏肉を全部魔法瓶に入れ、橋本絵里子には一滴も残さずに病院へ向かった。
とても香ばしい鶏肉スープの匂いに、お腹を空かせていた橋本絵里子は何度も唾を飲み込んだ。「奈奈、このスープ、家にまだ残ってる?」
橋本奈奈がスープを作るなら、お父さんの分だけじゃなく、もっと作っているはずだと思った。
でも不思議なことに、昨日家に帰って探してみたけど、鶏肉スープどころか、鶏の羽一本も見つからなかった。