第148章 頭がおかしくなったのか

「もういいわ。これ以上言うことはないわ。お父さんの好きなようにすればいいわ。私には関係ないし、お父さんのためにできることはこれくらいよ」

橋本絵里子はお父さんの娘だから、お父さんは放っておけない。お母さんのことは無視できても、実の父親は実の父親だから、お父さんのことも無視できない。結局は同じ理屈なのだ。

そう考えると、橋本奈奈の心は少し楽になった。

「奈奈、心配しないで。あなたが借りたお金は、父さんが返すから」

「お父さん、あなたは...」橋本奈奈は顔を上げ、躊躇いながら橋本東祐を見つめた。「お母さんが...何か言ったの?」まさか、お母さんはいつも最後まで認めない性格なのに、どうして自分から父の前で本当のことを話すはずがない。

「お母さんが?」橋本東祐は冷笑した。「お母さんのその悪い癖は、一生直らないだろうな」

車にはねられたが、まだ完全に意識を失っていなかった。手術をした日に起きたことについて、橋本東祐は多少聞こえていた。

それに昨日、橋本絵里子が少しの間いなくなった時、その日の同僚が来て、同僚も隠さずに事の顛末を全て橋本東祐に話し、状況を把握させた。

その日の様子を見て、同僚も伊藤佳代が上を欺き下を騙す人間だと察していた。

彼が言わなければ、橋本さんは橋本家で唯一蒙を食らっている人になってしまうところだった。

その日自分が聞いたことが幻聴や夢ではなく、現実だと確認した橋本東祐は、昨夜まったく眠れなかった。

伊藤佳代が自分に内緒で戦友からお金を借りていたと思うと、橋本東祐は伊藤佳代の歯を全部折って、二度と口が利けないようにしてやりたいほど腹が立った。

この女の図々しさは本当に度が過ぎている。まさに天下無法だ!

「お父さん、どうしたの?」橋本東祐の顔が徐々に黒ずみ、首が太く赤くなり、青筋が浮き出てくるのを見て、橋本奈奈は大きく驚いた。「お父さん、具合が悪いの?医者を呼んだ方がいい?我慢しないでね?」

橋本東祐は我に返り、心の中の怒りを少し抑えた。「大丈夫だ。お母さんのことで腹が立っただけだ。奈奈、今回の私の病気で、うちは全部でいくら借金したんだ?誰から借りたんだ?」

自分の手術代は末娘が借りてきたと聞いた。同僚の話では、田中さんはただ地面に座って泣き、赤の他人を演じてお金がないと言っていただけだと聞いて、橋本東祐は心が冷めた。