まして、彼女は一人っ子で、そんな場所には行けるはずもない。
「ああ、それならよかった」橋本奈奈が何か間違ったことをしていないことを何度も確認し、同僚はため息をつくしかなかった。
橋本家は、本当に混乱していた。
母親らしくない母親、姉らしくない姉、家族の中で一番下の子が大人の心配をしなければならない、これはいったいどういうことだろう。
「出てきた!」そのとき、手術室のドアが開いた。
「先生、主人の具合はどうですか?」伊藤佳代は目を赤くして駆け寄った。
「そうです、父は大丈夫ですか?」
「ご安心ください。手術は順調に進みました。ただし、患者さんは車にはねられたので、すぐには分からない症状もあります。これから24時間は患者さんに付き添って、何か変化があれば直ちに医師に連絡してください」医者は深いため息をつき、かなり疲れた様子だった。