まして、彼女は一人っ子で、そんな場所には行けるはずもない。
「ああ、それならよかった」橋本奈奈が何か間違ったことをしていないことを何度も確認し、同僚はため息をつくしかなかった。
橋本家は、本当に混乱していた。
母親らしくない母親、姉らしくない姉、家族の中で一番下の子が大人の心配をしなければならない、これはいったいどういうことだろう。
「出てきた!」そのとき、手術室のドアが開いた。
「先生、主人の具合はどうですか?」伊藤佳代は目を赤くして駆け寄った。
「そうです、父は大丈夫ですか?」
「ご安心ください。手術は順調に進みました。ただし、患者さんは車にはねられたので、すぐには分からない症状もあります。これから24時間は患者さんに付き添って、何か変化があれば直ちに医師に連絡してください」医者は深いため息をつき、かなり疲れた様子だった。
「先生、ありがとうございます」伊藤佳代は喜びの涙を流し、やっとまともな言葉が出てきた。「あなた、絶対に何かあってはいけませんよ。もう二度とこんな心配をかけないでください」伊藤佳代は橋本東祐のベッドの横に立ち、看護師と一緒に病室まで付き添った。
橋本東祐の命の危険が去り、伊藤佳代もようやく冷静さを取り戻し、感謝の言葉を口にし始めた。「今日は本当にありがとうございました。主人のことで色々と動いてくださって。あなたたちと工場の人たちの助けがなければ、私一人では何もできなかったでしょう」
同僚は口角を引きつらせながら「奥さん、私に感謝する必要はありません。大したことはしていませんから。橋本さんが頑張り屋で、良い娘さんがいたからこそ命が助かったんです。この良い娘さんがいなければ、私のような同僚がいても、今回の件は危なかったでしょう」
同僚の言葉に伊藤佳代の顔は曇り、橋本絵里子の顔も青ざめた。
なぜなら、同僚が橋本東祐には命を救った良い娘がいると褒めたのは、橋本奈奈のことだと分かっていたからだ。
橋本東祐の長女として、ほとんど何の助けにもならなかった自分が、このように面目を失い、橋本絵里子の表情は凍りついた。