第169章 メイドと間違えられた

橋本奈奈のその笑みは、まさに言葉以上の意味を持っていた。林康弘に彼が信頼できない人物だと明確に伝えるよりも、彼の面目を失わせ、より困惑させることになった。

林康弘は表情を引き締めたが、心中では相当な不快感を覚えていた。今日どうして一人の若い娘の前で恥をかいてしまったのだろうか?

「行くのか行かないのか?!」負けを認めたくない林康弘は胸を張り、橋本奈奈を置き去りにして家の中へと入っていった。

本来なら橋本奈奈は、この信頼できない老人と一緒に家に入りたくなかったのだが、斎藤お兄さんの頼みを思い出すと、汗まみれの姿で斎藤お兄さんが会わせたい人に会うのは失礼ではないだろうかと考えた。

仕方なく、橋本奈奈は林康弘の後を追って、大きな家の中に入った。

外観も美しかったが、内装はさらに見事だった。床には寄木細工のタイルが敷き詰められ、その模様は壮大で生き生きとしていた。天井からぶら下がっているクリスタルのシャンデリアは、雪の結晶のような形をしており、きらきらと輝いて非常に美しかった。

「これを使いなさい。安心して、タオルは新品だ。トイレはあそこだ。使い方は分かるか?分からないなら、誰かに教えてもらおうか?」林康弘は自宅の設備が一般的ではないことを思い出し、さらに橋本奈奈の素朴な様子を見て、心配そうに尋ねた。

「……」橋本奈奈は目を転がした。明らかに見下されていると感じた。

21世紀から来た自分が、目の前のこの老人が使える物は当然使えるし、老人が使えない物だって使えるのに。「ご心配なく、少し探れば大丈夫です」

林康弘が指し示した方向に従って、橋本奈奈は簡単にトイレを見つけることができた。

トイレの中に自分を閉じ込め、ドアや窓がすべてきちんと閉まっていることを確認してから、橋本奈奈は水を出し、まずタオルを何度か洗ってから、濡れたタオルで汗を拭き始めた。

体の汗は拭き取れるが、服についた汗は、しばらくの間では乾きそうにない。

本当に困った。こんな変わった老人に会うことになるとわかっていれば、着替えを持ってくるべきだった。少なくとも服を一枚余分に持ってくるべきだった。

体の汗を拭き取った後、橋本奈奈は仕方なく、自分の服を引っ張って振り回し、早く乾くことを願った。