「立件だけでも、警察の方に今日の件を記録に残してほしい」橋本東祐は歯を食いしばって、断固として言った。
彼が警察に通報することにこだわり、さらに六千円を一万円と言い換えたのは、伊藤佳代に教訓を与えるためだった。
今や伊藤佳代は絵里子のためなら何でもする勢いで、彼のことも恐れていない。彼自身はどうでもいいが、奈奈という子供が困るのだ。ずっと不当な扱いを受けている。
橋本東祐は考えた。伊藤佳代がどんなに悪くても橋本奈奈のお母さんだ。外から見れば、伊藤佳代がどれほど良くないとしても、娘の橋本奈奈にはできないことがある。たとえ橋本奈奈が自己防衛のためだとしても、やりすぎは良くない。
日本は孝行を重んじる国だからだ。多くの人の考えの中には、まだ「愚孝」という古い思想が残っている。
橋本奈奈が損をしないように、橋本奈奈の評判が傷つかないように、これらのことはすべて橋本東祐がやらなければならない。
橋本東祐と伊藤佳代は同世代で、しかも家長である。これらのことがすべて橋本東祐の出番であれば、橋本奈奈は少しの影響も受けず、非難される人は伊藤佳代だけになる。
今日起きたことについて、伊藤佳代にどんな言い分があっても、正当化できるものではない!
「本当によろしいですか?」警察官がもう一度尋ねた。
「はい、確かです」
「何が確かよ、だめ、記録に残しちゃだめ!」伊藤佳代は飛びかかり、警察官の手帳を奪おうとした。「今日のことは完全に私たち家族の問題よ、警察が関与することじゃない、記録に残せないわ!」
こんな恥ずかしいこと、伊藤佳代が認めるはずがない。
伊藤佳代は薄々感じていた。今日のことで警察に記録が残れば、今後橋本奈奈に何かしようとしても、そう簡単にはいかなくなる。必ず制限を受けることになる。
警察官は目を見開いた。「何てことを、警察官に暴行を加えるつもりですか?」
警察官はもともと、これは家族の問題だから、家の恥を外に出すべきではない、内部の矛盾は内部で解決すべきだと、橋本東祐を説得しようと思っていた。
しかし伊藤佳代がこんな態度を見せたため、警察官も怒った。彼らを自分の娘のように扱い、言うことを全部聞かなければならないとでも思っているのか。立件できないと言えば立件できず、記録に残せないと言って奪いに来るなんて?人民警察をなんだと思っているのか?