「お父さん、もう何も言わなくていいわ。お父さんが言いたいことは全部分かるの。正直に言うと、私はお父さんとは違うの。お父さんは姉の実の父親だから、自分の子供は良い子だと信じたいし、たとえ少し悪い癖があっても大した問題じゃないと思うでしょう。実は、あの日病院で姉が母さんに言った言葉は、手塚お兄さんが全部私に話してくれたわ。姉がちょっとでもお父さんに優しくすると、お父さんはすぐに心が柔らかくなって、姉は母さんに甘やかされただけで、まだ更生できると思ってしまう。仏様は夫婦は縁、子供は債と言うけど、縁なければ集まらず、債なければ来ないって。でも、姉が妹の前世からの借りだなんて誰も言ってないわ。私の姉がどんな人間なのか、お父さん、私の心にも秤があるの」
自分の妹から彼氏を奪おうとする女性について、橋本絵里子の人格がどれほど素晴らしいと言われても、橋本奈奈は絶対に信じられなかった。
そして、この人生で見えてきた数々の痕跡から、橋本奈奈は実の姉がただものではないと、ますます確信するようになった。
以前は理解できなかったのは、母が橋本絵里子の先陣を切り、最前線で戦っていたからで、橋本絵里子は静かに横で待機し、母に指示を出すだけでよかった。母は橋本絵里子の指示通りに動いていた。
こんな人が、本当は良い人なの?
どこが良いの!
結局、橋本絵里子が母に甘やかされて駄目になったのか、それとも母の行動が全て橋本絵里子の思い通りだったのか、今となっては分からない。
このような橋本絵里子に対して、少しでも油断すれば、それは二度目の自殺行為も同然だった。
「姉が私にどうしてきたか、私は全部覚えているわ。父娘は父娘、姉妹は姉妹。お父さん、私は何もしてほしいとは言わないけど、でもある事については、説得しないでほしいの。無駄だから。私は率直な性格で、言葉を隠すのも演技をするのも苦手。でも姉妹は姉妹、親族は親族、それだけよ」橋本奈奈は、橋本東祐が橋本絵里子を弁護する言葉を聞きたくなかったので、橋本東祐に何を言っても無駄だと直接告げた。
彼女と橋本絵里子の関係は、将来完全に絶縁するとまでは言わないが、親密な関係になって一心同体のようになることは、絶対にありえないだろう。