女の子として、橋本奈奈が美人だったら、お金持ちの婿を見つけて、将来は良い暮らしができたかもしれない。
でも橋本奈奈は橋本絵里子よりも容姿が劣るので、将来は誠実な普通の男性を見つけられれば上出来だろう。男性に頼って良い暮らしをしようと思っても、奈奈の容姿ではそんな男性は見つからないだろう。
枕元の言葉は強力で、伊藤佳代が十八年間も橋本東祐の頭を洗い続けたため、橋本東祐は伊藤佳代の言葉が正しいのか間違っているのかを考えることすらなくなっていた。
この時、橋本東祐は冷静になり、ようやく自分で考える力を取り戻した。
幼い頃の才能が必ずしも大人になってからの成功を約束するわけではない。絵里子のように幼い頃から才能のない人間が、大人になって大成するなんてことがあるだろうか?
ありえない……
そうだ、奈奈は絵里子ほど口が上手くないかもしれない。でも奈奈は実行力がある。口先だけが上手くても何の意味がある?実際に行動を起こせば、誰に実力があって誰にないのか、すぐにわかることじゃないか?
容姿と言えば……
橋本東祐は奈奈の顔をじっと見つめ、ますます憂鬱になった。
橋本東祐は以前軍人だったので、日に焼けて肌が黒かった。そのため伊藤佳代と結婚した時は、伊藤佳代の肌の白さが際立って見えた。伊藤佳代は絵里子が自分に似て肌が白いとよく言っていたが、確かに絵里子の肌の色は伊藤佳代によく似ていた。
しかし、橋本東祐は顔こそ黒いものの、日に当たらない体の部分は伊藤佳代よりもずっと白かった。
実は肌の色に関して、奈奈は橋本東祐に似て、絵里子よりも白かった。
一白遮三醜と言うように、肌の白さだけでも奈奈は絵里子より三つ勝っている。さらに二人の顔立ちを比べると、絵里子は伊藤佳代に似て少し四角い顔だが、奈奈は橋本東祐に似てとがった顎を持ち、21世紀で最も流行している顔立ちだった。
他人は整形が必要だが、奈奈の顔立ちは生まれつきのものだった。
絵里子は20世紀末に年配者が好む典型的なタイプで、顔にふっくらと肉がついて丸みを帯びた四角い顔で、体つきもふくよかで、一目で子孫を残すのに適した体型だとわかる。
しかし橋本東祐は男性として、男性が女性を見る目と年配者が嫁を見る目は違うということを知っていた。