「言うなら言えばいいじゃない。ぐずぐずしないで。手塚教官がもうすぐ来るわ」橋本奈奈は手を引っ込めた。「いいわ、何か言いたいことがあるなら、言って。聞いているわ」
「橋本さん、あなたたちの寮にはまだ二つ空きがあるはずよ。私、あなたたちの寮に引っ越したいんだけど、どう?」
「寮を変えたいって?それも私たちの寮に?」橋本奈奈は眉を上げた。「あなたが言い間違えたの?それとも私の聞き間違い?」橋本奈奈は一瞥して、白井照子が井上雨子を睨んでいるのを見て、午前中の出来事を思い出して理解した。「寮を変えたいなら、私には決める権限はないわ。戸川先生と相談してみて。私に聞いても無駄よ」
「じゃあ、あなたは賛成?もし賛成なら、一緒に戸川先生に話しに行ってくれない?先生はきっと承諾してくれるわ」橋本奈奈は高校入試の一位で、さらに1組の首席だった。橋本奈奈が話せば、戸川先生はきっと同意するはずだ。
「あなた、私をからかってるの?」橋本奈奈は信じられない様子で井上雨子を見た。「あなたが私の立場だったら、同意できる?それに、私が同意しようがしまいが、なぜ私があなたと一緒に行かなきゃいけないの?あなたが寮を変えるのであって、私じゃないでしょう。何の関係があるの?井上さん、お昼寝から目覚めてないの?」
「橋本さん、クラスメートとしての愛情はもうないの?他の人と比べたら、私たちは同じ中学校の出身よ。以前は同じクラスだったじゃない」
「あなたに同級生としての愛情があったなら、作文コンテストの時に私のペンを壊したりしなかったはず?あなたが壊したのはペンだけじゃなく、自分の頭も壊れちゃったみたいね」橋本奈奈は口角を歪めて、もう戻ろうとした。井上雨子とこれ以上話す気はなかった。無駄な息遣いだった。
「あ、そんなに大きな声を出さないで!」井上雨子は顔を青ざめさせた。「作文コンテストの時のペンの件は、私には関係ないわ。そのことで、私は平泉中学校でずいぶん白い目で見られて誤解されたのよ。言わせてもらえば、あなたは私に借りがあるのよ。証拠もないのに、どうしてそんな中傷ができるの!もし自分の過ちを認めるなら、私と一緒に戸川先生に会いに行って、私をあなたたちの寮に移してもらって。過去のことは、もう水に流すわ」
井上雨子は気づいた。白井照子と比べると、橋本奈奈の方がずっといじめやすかった。