第229章 誰が急いでいるのか

この言葉を思い出し、橋本東祐は薄い唇を一文字に結び、細めた目で橋本絵里子を見つめた。「絵里子、今日はずいぶん勤勉だな。普段は家事が一番嫌いなはずだが?」

「お父さん、大げさすぎるわ。朝ごはんはお父さんが買ってきたものだし、私はお椀と箸を並べただけよ。他には何もしてないわ。お皿洗いを頼まれたら、私が喜んでするかしら?自分から進んでするかしら?お父さんだって知ってるでしょう、私は手が濡れるのが大嫌いなの」橋本絵里子は唇を噛み、すぐに普段の表情に戻った。

「そうか?」橋本東祐は信じられず、橋本奈奈はなおさら信じられなかった。

伊藤佳代は橋本家では女帝ではないかもしれないが、橋本絵里子は間違いなく橋本家の姫だった。家事はおろか、座れるときに立つことはなく、寝られるときに座ることもなかった。

お椀と箸を並べるのは非常に簡単な仕事だが、橋本絵里子の性格と利己的な性質からすれば、疲れていなくても、自分の前に全部運んでもらうのを待つために、足を組んで座っているほうを選び、手伝いなど決してしないはずだった。

「お椀と箸を並べただけじゃない。お父さん、奈奈と二人とも大げさすぎるわ。こんな反応するなら、最初からやらなかったわ。これからは家のこういうことは、私に頼まないで」橋本絵里子は口を尖らせ、不機嫌になった。「あなたたちの反応といったら、まるで私が普段家で何もしていないみたいじゃない。これらのお椀と箸は私が並べたの。奈奈、あなたは使えないわよ。使いたければ自分で取りなさい!」

腹立たしい。彼女がお椀と箸を並べたのに、橋本奈奈はまだこんなに疑り深い。

だから彼女はずっと言ってきた。死んでも橋本奈奈に優しくしたくない、優しくすれば必ずこのような侮辱を受けるのだから。

それに、ずっと橋本奈奈が彼女に借りがあるのだから、橋本奈奈が彼女に優しくすべきで、彼女が橋本奈奈に優しくする必要はないのだ。

「いいわよ、自分で取るわ」橋本奈奈は笑った。少し時間がかかっても、自分のことは自分でやったほうがいい。橋本絵里子のこの親切は受けたくなかった。

橋本絵里子が用意したお椀と箸は使う気になれなかったが、橋本東祐が買ってきた朝食は、橋本奈奈はとてもおいしく、一口一口丁寧に食べた。