「お母さん、奈奈の心の中にはもう一人のお父さんしかいないのよ。私まで奈奈みたいに、お母さんとお父さんを見る目が違うようになって、お父さんには懐くけどお母さんには懐かなくなるのを望んでいないでしょう?瀬野先生だって、私の顔を立てて来てくれたからこそ、わざわざ警察署まで来て、お母さんを保釈してくれたんでしょう。恥ずかしくないの?お母さん、私を瀬野先生の前で恥をかかせて、瀬野先生に嫌われるようにしたいの?」
「はいはいはい」橋本絵里子が強い口調で言うと、伊藤佳代はもうどうすることもできなかった。「でも私の手元にはそんなにお金がないの。全部あげても構わないけど、なんとか次の半月を乗り切る方法は考えられるわ。でもお父さんを見つけるまでは、仕事は探せないし、働かなければ収入もない。じゃあ、次にあなたが帰って来た時、お小遣いはいらないの?」