橋本奈奈は、白洲隆が最近テレビドラマを見すぎて、この台詞が効果的だと思って、そのまま使ってきたのではないかと疑っていた。
「そうだ、今日は二人とも宿題をしっかりやってくれよ。奈奈、パパはちょっと用事があって出かけないといけないんだ」
「パパ、もう年末なのに、何の用事?」橋本奈奈は心配そうに尋ねた。
「前に引き受けた帳簿の計算が終わったから、年末までに届けないといけないんだ。この帳簿があってこそ、彼らも従業員に給料を支払えるからね」橋本東祐は分厚い書類の束を抱え、後部座席に縛り付け、袋で包んで、書類が散らばったり風で飛ばされたりしないようにした。
「パパ、気を付けてね。それと、こういう副業はもうやめてよ。十分でしょう。まさか年末年始も残業するつもりじゃないでしょう?」橋本奈奈はため息をつき、お金を稼ぐために必死な父親を見て心配だった。
「大丈夫、パパはわかってるから。奈奈と隆は家でしっかり宿題をやっていてね」書類が落ちないことを確認すると、橋本東祐は自転車に乗って中庭を出て行った。
「奈奈さん、相談したいことがあるんだ」橋本東祐が去った後、白洲隆が口を開いた。「実はこれは父が言い出したことで、僕は関係ないんだ。父が言うには、君と橋本絵里子は一学年しか違わないから、もし二人とも大学に行くことになったら、橋本おじさんが同時に二人の学費を出すのは絶対に無理だって。父の考えでは、まず父が君の大学の学費を援助して、将来君が社会人になって返したければ返せばいいって。そうすれば、橋本おじさんも少し楽になるし、君も焦る必要がなくなる」
最も重要なのは、奈奈さんと橋本絵里子が同時に大学に行くことは不可能で、橋本家にはそれだけのお金がないということだった。
この状況になれば、伊藤佳代の以前の態度からすると、きっと奈奈さんの進学の機会を奪い、橋本絵里子だけを進学させようとするに違いない。
そうなった時、伊藤佳代が奈奈さんをどんな目に遭わせるか、誰にもわからない。
「それは、考えさせて」自分にとって百利あって一害もないことなのに、橋本奈奈はすぐには承諾できなかった。