橋本奈奈だけでなく、白洲隆もその声の主が誰だかわかった。白洲隆は顔をしかめた。「橋本絵里子が何しに来たんだ?」
「わからない」橋本奈奈は首を振った。橋本絵里子が訪ねてきたからには、ドアを開けないわけにはいかない。何より今は冬休みで、家にいないはずがないし、逃げたり不在を装ったりもできない。「お姉ちゃん、どうして...大野宏と一緒に来たの?」
橋本奈奈は橋本絵里子に何しに来たのか聞こうとしたが、橋本絵里子の隣に大野宏を見た途端、何も聞く必要がなくなった。
「そうよ、私は宏と一緒に来たの」橋本絵里子は笑いながらドアを押し開けて中に入った。「宏、早く入って。外は風が強いから、風邪を引かないように。ここを自分の家だと思って、何か必要なものがあったら遠慮なく言ってね」
「...」橋本奈奈は眉をひそめたが、何も言わなかった。
大野宏は片方の口角を上げ、橋本奈奈の傍を通り過ぎる時、挑発と嘲笑の眼差しを向けた。
「にぎやかですね」部屋に入ると、橋本絵里子は白洲隆だけでなく、前回病院で会った「斎藤お兄さん」もいるのを見て、笑顔が引きつった。一人は若くして成功を収め、もう一人は若き鳳凰のように清らかな声の持ち主で、二人とも非凡な人物で、いずれ大成するだろう。
このような優秀で若い二人の男性が、いつも橋本奈奈の周りにいる。橋本絵里子は歯ぎしりをした。この二人は目が見えないのか。私の方が橋本奈奈より優秀で、美しく、素晴らしいのに。
私と比べれば一目瞭然なのに、なぜこの二人は橋本奈奈を選び、私のことは目に入らないかのようなのか。
「宏、座って。熱いお水を入れてあげるわ」幸い、白洲隆と斎藤昇が私の良さを理解できなくても、私が橋本奈奈より優れていることがわかる人もいる。
「はい」大野宏は以前のように気楽に座らず、控えめに端の方に座った。彼は既に白洲隆が橋本奈奈を訪ねてきたことを知っていたが、斎藤昇までいるとは思わなかった。
大野宏は天下無敵だが、唯一斎藤昇の前では心が弱くなり、普段の図々しさも大きく抑えられた。
白洲隆なら出し抜けるが、斎藤昇は絶対に太刀打ちできない相手だった。