第355章 全ては嘘だった

田中勇がどんな人物で、どんな身分であろうと、田中勇が大野宏に対して何の価値もないと確信するまでは、田中勇は非常に社交的で、決して機会を逃さない人物だった。

今日の田中勇のように、終始沈黙を保ち、大野宏を一度もまともに見ようともしなかった。

この態度だけでも、橋本奈奈は田中勇に絶対に何か問題があると確信できた。これは普段の田中勇ではなかった。

田中勇の様子がおかしいということは、田中勇と大野宏の間に何か秘密があるということを示唆していた。

橋本奈奈が試しに二人が知り合いかどうか尋ねてみたところ、田中勇だけでなく、大野宏も否定した。

二人が口を揃えて答えたことは、まさに「否定することで逆に事実を証明している」ということわざそのものだった。

橋本奈奈が前世で知っていた田中勇の性格なら、この時点で必ず、どこかで大野宏と会ったことがあるかもしれない、縁があるなどと言い出すはずだった。