「わかったわ、ここで電話をかけて。ちょうど私も何か取りに行かなきゃならないから」戸川先生は何かを思い出したようで、橋本奈奈に事務室を譲った。幸い、戸川先生と同じ事務室の先生たちはちょうど全員不在だった。そうでなければ、このようなことはできなかっただろう。
戸川先生が出て行くとすぐに、橋本奈奈は心に刻んでいた電話番号をダイヤルした。
電話が一回も鳴り終わらないうちに、半分も鳴らないうちに、電話は取られた。「斎藤お兄さん、私よ。父さんから電話があって、母さんが姉と一緒に引っ越したって」
「知ってるよ」
「知ってるの?」
「うん」
「どうしたの?何も問題なかったのに、姉さんがどうして引っ越しに同意したの?」そう、母親の考えはさておき、橋本絵里子の性格からして、彼女がこんなにスムーズに引っ越すはずがない。