鐘見寧は洗面所で顔を洗っていると、病室に駆け込んでくる音が聞こえた。「鐘見さん、いらっしゃいますか?」
「はい?」
洗面所から出ると、息を切らした看護師が外を指差しているのが見えた。「すぐに見に行ってください」
「どうしたんですか?」
「あの鐘見月さんがあなたの悪口を...」看護師は息を整えてから続けた。「賀川さんのお怒りを買って、人に殴らせたんです」
「そうですか?」鐘見寧は顔の水滴を拭いながら、「どのくらい殴られたんですか?」
「かなりひどいです。早く見に行ってください」
この病棟に入院できるのは、青水市の権力者の家族ばかり。皆察しが良く、中には病室に戻って様子を見るだけの人もいて、誰も仲裁に入ろうとはしなかった。
医療スタッフも困惑していた。
皆手が出せない相手なので、鐘見寧を呼びに行くしかなかった。