彼の言葉に恥ずかしくなった鐘见寧は洗面所に入り、胸元に赤い痕が残っているのに気づいた。
関係を持つのは時間の問題だと思っていたが、彼らの関係では子供を作るのは適切ではなく、避妊は必須だと。
蛇口をひねり、冷水で顔を洗う。
鐘见寧は次第に冷静さを取り戻し、頭の中で鐘見曜が言った言葉が繰り返し響く。
賀川さんは彼女のことが好きだと……
それも並々ならぬ好意を。
聞いてみたい気持ちはあったが、一度口にして否定的な答えを得たら、これからの二人の関係が気まずくなるのが怖かった。
賭けるのが怖かった。
——
翌日、見送り。
鐘见寧は梁井佳音に自作の合香珠を贈った。
香札と線香を用意し、梁井佳音に賀川大婆様への手渡しを頼んだ。「中にはライチの香りがあって、秋になったので桂花の香札も作りました。それに二蘇旧局、雪中春信もあります。」
「必ず届けます。」
「賀川叔父、最近よくお休みになれていないようなので、鵝梨帳中香も作りました。寝る前に焚くと、睡眠に良いんです。」
賀川博堂は少し驚いた様子だった。
寝付きが悪いことは誰にも話していなかったのに、鐘见寧が気づいていたとは。
やはり、娘は気が利くものだな。
賀川野は傍らで長い間待っていたが、鐘见寧は笑顔で彼を見るだけだった。「野、新学期の学業の進歩を祈っているわ。」
「お姉さん、本気ですか?」
「お前、何が言いたいんだ?こんなに長く居候して迷惑をかけておいて、まだプレゼントをねだるのか?」賀川博堂は冷ややかに言った。
「でも僕も楽しみを提供したじゃないですか。」
鐘见寧は笑いながら彼に近づき、小声で言った。「あなたのプレゼントは、お兄さんが渡すって。」
車に乗って出発するまで、賀川野は何のプレゼントももらえなかった。
兄に催促する勇気もなく、すっかり落ち込んでいた。
蘭亭を出発してしばらくすると、賀川野のスマートフォンが振動し、兄からの送金通知を受け取った。
彼の目は一瞬で輝いた。
兄にメッセージを送った:【ありがとうございます、一攫千金を体験させてもらいました!】
【兄さんの温かい支援に感謝です!】
【さすが兄貴、太っ腹だね。奥さんがいるのも当然だわ。】
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蘭亭内