彼女の積極的な態度に、賀川礼は一瞬戸惑った。
すぐに、彼女の手をしっかりと握った。
「寧ちゃん」賀川礼は遠くの空を見つめた。秋の太陽は強く照りつけていたが、風には冷たさが混じり、少しの暖かさも感じられなかった。
「うん?」鐘见寧は鈍く返事をした。
「母は素晴らしい人だった。知的で優しくて、ピアノが弾けて、フランス語の童話を何冊か翻訳していた。自分で書いた短編集を出版したがっていたけど、叶わないまま亡くなってしまった」
「母が亡くなった時、僕はまだ小さくて、あまり記憶がない」
「限られた記憶の中で、ただ母の笑顔が綺麗だったことだけは覚えている」
これは賀川礼が初めて自分から母親のことを話した。
鐘见寧はただ静かに聞いていた。
幼かったとはいえ、それでも記憶はあった。そして母親の愛が最も必要な年頃だった。