薄暗い灯りの中、その茶色い子犬のような目は澄んでいて、従順で可愛らしく、無害そうな様子。そんな可愛い子犬があなたをじっと潤んだ目で見つめていたら、誰が耐えられるでしょうか。
江口晗奈の頭の中は混乱していた。
彼女は感情を抑えようと努めた。「あなた、私が悪い人かもしれないのに怖くないの?」
「あなたは違います」
「どうして?」
「きれいだからです」
「……」
江口晗奈は笑い出した。やはりまだ若いな、きれいだから悪い人じゃないって?
笑いすぎて足が少し震え、壁にもたれかかった。
酒気を帯びたその狐のような目は少し赤く、魅惑的だった。
目の前の男性は少し呆然としているようで、江口晗奈は体を起こし、彼が呆然としている隙にバッグを取り、彼の肩を軽く叩いた。「そんなに純粋じゃダメよ。聞いてみれば分かるわ、私はとても悪い人なの」
「今夜はありがとう。また会いましょう」
「待ってください」男性が彼女を呼び止めた。
「はい?」
「また会えたら、食事に誘ってくれますか?」
江口晗奈は笑顔で頷いた。
彼女は駐車場に向かい、代行運転が見つからなかったので、直接木村海に連絡した。
木村海は呆れた。本当に自分を運転手だと思っているのだろうか。心の中で不満を抱きながらも、ホテルまで行った。ホテル周辺は速度制限があり、車はゆっくりと進んでいた。江口晗奈は窓を開け、涼しい風に当たって、酒による熱を冷ましていた。
「今夜はかなりお酒を召し上がったようですね」木村海はバックミラー越しに彼女を観察した。
江口晗奈は首を傾げて「木村海、私、犬を飼えるかしら?」
「犬ですか?」
木村海は意味が分からず「お好きなものを飼えばいいと思います」
江口晗奈は何故か後悔し始めていた。
さっきあの茶色い子犬を連れて帰ればよかった。
声も良いし、見た目もいいし、家に置いても心が和むのに。
次があれば、
もし本当に縁があるなら、また会えるはず。
その時、車は待機所でゆっくりと進んでいた。江口晗奈の目がふと流れて……
瞬間、凍りついた。
あの茶色い子犬が路肩に立っていた。車を待っているようだった。
目が合った瞬間、
彼も驚いたようだった。
すぐに彼女に微笑みかけた。
熱烈で誠実、温かく明るい笑顔。風が服を膨らませ、彼の魂までも光を帯びているようだった。