さっきぶつかりそうになった男も、ふらふらと立ち去っていった。江口晗奈は全身お酒でびしょ濡れになり、目の前の人を見つめながら、頭の中は混乱していた。
また彼なの?
これで3回目だよね。
どんな縁があって、こんなに続けて出会えるの?
こんな偶然があるの?
でも今は頭がぼんやりしていて、深く考える余裕もなかった。
こんなに近くで見ると、この男性は本当に綺麗な顔立ちをしていた。まつ毛は長く繊細で、目は輝いていて、柔らかな髪が額にかかっていて、従順な子犬のようだった。
廊下の光は薄暗く幻想的で、視線が絡み合うと、何とも言えない甘い雰囲気が漂っていた。
江口晗奈は彼の手がまだ自分の腰に置かれていることに気付いた。掌は温かかった。
彼はすぐに手を引っ込め、
抑制的で、よそよそしく、礼儀正しい様子を見せた。
「お嬢さん、大丈夫です...」
彼は言葉を最後まで言わず、かがんで彼女のバッグを拾おうとしていた。
江口晗奈も頭がくらくらして、全身が熱く、無意識のうちに手を伸ばした——
彼の髪に触れた。
まるで家のファンタの毛並みを撫でるように、
さらに二度ほど撫でた。
この子犬の毛は...
想像以上に柔らかかった。
男性は彼女の行動に驚いたように、体を起こし、驚きの表情で彼女を見つめた。
そのとき、声が近づいてきた。「晗奈姉、トイレに行ったの?随分長いけど。もしかして、こっそり帰っちゃったのかな」
「それもありえるね」
「でも今夜はかなり飲んでたし、晗奈姉も最近気分が優れないみたいだし。口には出さないけど、家でもあんなことがあったし、私たちがちゃんと付き合わないとね」
...
江口晗奈は息を呑み、周りを見回して、隠れる場所を探した。
みんな酔っ払ってるし、また捕まったら、今夜は帰れなくなりそうだった。
彼女は身を翻し、近くの物置に隠れようとした。
一歩踏み出したとき、前腕をぐっと掴まれた。
その茶色い子犬が彼女の腕を掴んでいた。
友達の会話が近づいてくる中、江口晗奈は振り払おうとしたが、この子犬はとても強く掴んでいて、全く離す気配がなく、これに眉をひそめた。
どうしたの?
ちょっと頭を撫でただけじゃない?
そんなに執着することないでしょ。