163 まるで火がついたように、茶色い子犬

視線が絡み合い、一瞬の交差。

彼の瞳の奥には戸惑いが浮かび、薄い茶色の瞳は、クリスタルシャンデリアの下で、きらめく星のような輝きを放っていた。

江口晗奈は心の中で感慨深く思った:

造物主は本当に不公平だ。

彼に美しい顔を与え、その上こんなにも綺麗な瞳まで。髪も見るからに柔らかそうで、触れたら確実にシルクのように滑らかなはずだ。

彼女が視線を外したその時、背後から優しい声が聞こえた。「姉さん。」

賀川礼が来た。

「お酒を飲んでいるから、送って行きましょう。」

「あなた、接待があったんじゃない?」

「常連客だから、大丈夫です。」

賀川礼は寒気を纏ったような雰囲気で、どこにいても目立つ存在だった。その強烈な威圧感に、先ほどまで賑やかに話していた人々は一瞬にして沈黙し、二人が去るのを見送った後でようやく、誰かが大きく息を吐いた。

「賀川さん、さっき入ってきたばかりじゃなかった?どうして出てきたの?怖かった。」

「従姉を送るんでしょう。」

「さっきの人が岸許家のお嬢様、江口晗奈さんよ。すごい人なのよ。実の父親を家から追い出して、噂によると愛人の家まで押しかけて家を壊し尽くしたらしいわ。今じゃ父親は一文無しになったって。」

「本当に美人だわ。今は岸許家の一人娘なのよね。」

「それがどうした。帝都で誰が彼女と結婚しようとするの?命が惜しいでしょう。」

「そういえば、岸許家のお嬢様って、誰かと付き合ってるって話聞いたことないわ。性格が強いから、普通の男性じゃ手に負えないでしょうね。」

「学生時代に誰かと付き合ってたみたいだけど、その後はわからないわ。もしかしたら今も誰かいるかも?私たちの立場じゃ、そこまで詳しいことはわからないでしょうけど。」

「そうね。賀川さんだって、ダンサーと密かに付き合ってるんでしょう?」

「彼女も私生活では彼氏がいるかもしれないわ。」

「……」

傍らに座っていた男性は、頭を少し下げたまま、まるで彼らの会話に全く興味がないかのようだった。

——

江口晗奈は車に乗り込むと、頬杖をつきながら窓の外を眺めた。「私を家に送りたいんじゃなくて、奥さんに会いたいだけでしょう。」

岸許家旧邸は和楽園からかなり遠く、大婆様はよく鐘见寧を泊めていた。

賀川礼は黙ったまま、それを認めるかのようだった。