図面を描いていた男は、頭を上げることもなく。
「下階でお客様同士が揉めています」
「全員追い出せ」
「でも、一人は事を荒立てたくないと」
「なら、荒らす方だけ追い出せばいい。そんなことまで教えないといけないのか?」
「ですが、今は二人が手を出し始めました」
男は筆を止めた。「誰が殴られた?」
「荒らしている方です」
男は黙ったまま、再び図面に目を落とした。スタッフは焦っていた。対応をお願いしたかったが、折よく今日は盛山若社長がいた。
孔田家ならまだしも、賀川家まで巻き込むとは。「盛山若社長、もしよろしければ...見に行っていただけませんか?」
「私は警察じゃない。室内には監視カメラがある。警察に通報しろ」
「お客様の一人が賀川さんの恋人なんです」
「賀川礼?」
スタッフが頷いた。