懐かしい声。
彼の体から漂う懐かしい木の香りが瞬時に彼女を包み込み、鐘见寧は一瞬ぼんやりとして、全身の力が抜け、カッターナイフを落としてしまった。「賀、賀川礼?」
「ああ、怖がらなくていい。俺が来た」
賀川礼は彼女の背中を優しく叩きながら、その知的な外見の誘拐犯に視線を向けた。
眉間には怒気が満ちていた。
骨の髄まで染み込んだ冷気は、目を合わせた者を震え上がらせるほどだった。
「お前は誰だ、これは俺の嫁だぞ!」暗がりの中、男は最初賀川礼が誰だか分からず、まだ鐘见寧を強引に引っ張ろうとした。
しかし指が彼女に触れる前に、賀川礼は突然足を上げた。
その男に向かって思い切り蹴りを入れた。
悲鳴が一声響き、男の体は弓から放たれた矢のように、激しく地面に叩きつけられた。
仲間は呆然とした。