リビングにて
祖母と母の疑わしげで困惑した、そして品定めするような視線に、江口晗奈は頭が締め付けられるような感覚を覚えた。「婆ちゃん、本当に彼を虐めてなんかいないよ」
すると……
樱庭司真が二つのスーツケースを持って入ってきた。
彼は背が低くはないものの、痩せ型で、実年齢よりも若く見える顔立ちをしており、二つの大きなスーツケースを持つと、まるで腕が折れそうに見えた。
岸許大婆様は軽く鼻を鳴らした。「これが、虐めてないっていう証拠?」
「私は……」
江口晗奈は弁解のしようがなかった。
樱庭司真は丁寧に挨拶をした。「岸許婆ちゃん、こんにちは」
そして江口蕴の方を向いて、「おばさま、こんにちは」
「私は樱庭司真と申します。初めてお会いするのに、お土産も用意できず、申し訳ありません」
「晗奈のことを責めないでください。彼女は私を虐めてなんかいません。すべて私の意思です」
樱庭司真はスーツケースを脇に置き、テーブルが空っぽなのを見て、「少々お待ちください。お茶を入れてまいります」
そう言って、手を洗い、キッチンへ向かった。
ファンタは樱庭司真を見るなり猫ベッドから這い出し、後を追って餌をねだった。
「いい子だね、まずはフリーズドライをあげるから、後で夕飯を作ってあげるからね」樱庭司真は足元のファンタに言い、小さな子は少し不満そうだったが、フリーズドライと聞いて興奮して鳴き始めた。
「まだ人を虐めてないって言えるの?この若者は一目で分かる、素直な子よ」岸許大婆様は軽く鼻を鳴らした。
江口晗奈は絶句した。「婆ちゃん、どういう意味?彼が?素直?」
「じゃあ私は?素直じゃない?」
老婦人は眉をひそめた。「あなたの性格は、素直とは程遠いわね」
「……」
江口晗奈は祖母と母が突然やって来るとは思ってもみなかった。
以前電話で、適当な時期に樱庭司真を家に連れて行くと話していたのに。
「どこでこんな不運な子を見つけてきたの」
「婆ちゃん——」
「見てごらん、私たちがお茶も飲んでないことに気づいて、お茶を入れに行くなんて、この若者はいい子じゃないの。あなたときたら、私を怒らせることしか知らないし、彼氏ができたという大事なことも、一言も言わなかったじゃない」
「言ったじゃない、男の子と同棲してて、怒らせちゃって、追いかけに行くって」