香房の中で、香を焚き、お茶を飲みながら、菅野望月は玉兎の香立てから視線を移し、向かい側の人に落とした。
賀川洵は椅子の背もたれに寄りかかり、窓際に近く、陽光が彼の上に降り注ぎ、お茶を飲みながら、全身から怠惰でありながら奔放な雰囲気を漂わせていた。
横たわりながらも流れず、雲の心と月の性。
この男は座っているだけで、何も言わなくても、人を魅了する。
「この数年間、海外で何をしていたんだ?」彼は気軽に尋ねた。
「仕事です。」
「そうか?」
賀川洵はこの数年、業界の人々に彼女の居場所を探り続けていた。「君が退職した後、スタジオの人が君を探していたが、ずっと連絡が取れなかった。」
「いくつかの機密プロジェクトに参加していました。」
賀川洵は頷き、それ以上は何も言わなかった。
機密性のある仕事の中には、スタッフの所在を隠すものもある。
話している間に、賀川洵の携帯が振動し、自分の父からだった。彼は電話に出て「父さん」と言った。
「このバカ者、どこに隠れているんだ!」
「屏風の後ろに人がいるって言ってたのに、結局どうなった?人は跡形もなく消えちまった。」
「賀川洵、言っておくが、今日のことは私を本当に怒らせた!」
……
菅野望月は賀川様が何を言っているのか聞き取れなかったが、彼が電話をしているのを見て、立ち上がって香房を見回した。ここにあるものは全て彼女にとって新鮮で、様々な香りを作るための薬材や、形の異なる茶香や薫炉が並べられており、とても精巧だった。
女の子はこういった繊細で美しいものに抵抗できない。
「隠れているからって済むと思うな、さっさと居間に来い!」
「行きません。」賀川洵は父親が勝手に決めた見合いに不満を持っていた。
「この逆子め――どうしてお前のような者を産んでしまったのか!」
「他に用がないなら、切りますよ。」
老人は怒りで顔色が鉄のように青ざめた。
後で必ず末っ子に厳しい仕打ちをしてやると言い放った。
ちょうど賀川凌介が帰宅すると、すぐに孫に指示を出した。「お前...棒を持って、ついて来い!」
「お爺さん?」賀川凌介は眉をひそめた。「何をするんです?」
「門戸の清めだ!」