327 一声「彼女」で火照る心

賀川家旧邸

賀川洵が先ほど離れ、菅野望月は一人で賀川家の者たちと向き合い、慌てていた。

賀川家の者たちが二人の交際経緯や他の細かいことを聞かれるのが怖かった。彼女は賀川洵と打ち合わせをしていなかったため、ばれることを心配していた。

だから賀川洵が現れた時、救世主を見たような気がした。

「食事も済んだことだし、あなたが彼女を案内して、散歩でもしてきなさい」とお婆様が笑顔で言った。

賀川洵は頷き、菅野望月を外へ連れ出した。

外は寒かったが、賀川家の者たちから離れることができ、菅野望月はようやく深い息をつくことができた。

「そんなに緊張することないだろう?」賀川洵の口元に、かすかな笑みが浮かんだ。

「でも、あれは賀川様ですよ!」

「父は普通の人だよ。外の人が神格化しているだけだ」