個室にて
盛山文音は湯川俊夫の隣に寄り添い、鳥を撮影する時の面白い話を聞きながら、彼の家でシロハヤブサを見に行く約束をしていた。
「シロハヤブサを見に来る時は、賀川家のあの小僧も連れてきなさい」と湯川俊夫は咳払いをした。
「誰のことですか?」
文音は一瞬戸惑った。
「君の義理の弟だよ」
「……」
「この前、シロハヤブサを見たいとしつこく言ってきて、雀みたいにうるさくてね。連絡先を交換してからは、毎日三食挨拶してくるんだ」
文音は小さく笑った。「もしお邪魔だと思われるなら、後で彼に言っておきます」
湯川俊夫は咳をして、「まあ...そこまで邪魔じゃないがね」
「それに、あの小僧は体力があるから、鳥撮影に付き合ってくれて、機材も運んでくれる」
この話を聞いて、文音は笑いを必死に堪えた。
この前、賀川野が叔父さんと鳥撮影に行った時、鳥を2時間待って、撮影は2秒だけで、重い機材を運んで腕が上がらなくなったと言っていた。
帰宅後、自分に愚痴をこぼして、人生の苦瓜だと言っていた。
「俊夫さんは今は国内に住んでいるんですか?」町田克純が突然口を開いた。
「まあね」湯川俊夫はお茶を一口飲んで、「君が盛世を辞めて自分の会社を立ち上げたと聞いたよ。何か手伝えることがあったら、遠慮なく言ってくれ」
「ありがとうございます」
文音はビジネスのことがよく分からず、賀川礼に近づいて小声で尋ねた。「彼、会社を立ち上げたの?」
「ああ」
「どんな会社?」
「宝飾デザインだよ。彼はこの業界に長くいて、人脈もある」
文音は眉をひそめた。いわゆる人脈というのは、きっと盛世で築いたものだろう。これは明らかに盛世の顧客を奪うということではないか?
しかし、彼は文音の命の恩人で、つまり盛山家全体の恩人だ。たとえ顧客を奪おうとしても、見て見ぬふりをするしかない。それに盛山漱花が退職した後、会社は大きな動揺があり、確かに他のことまで気にする余裕はなかった。
「寧ちゃん、これを君に」町田克純は箱を取り出して彼女に渡した。
「ありがとうございます」文音は受け取った。箱には【玉翠堂】という文字が印刷されていて、彼が立ち上げた会社名のようだった。
「開けて見てごらん」