330 プロポーズ、茶色い子犬:僕って凄いでしょう(2話)

樱庭司真は彼女が呆然としているのを見て、さらに続けた:

「子供で君を縛るつもりはないよ。もし望まないなら、君の選択を尊重する」

「ただ伝えたいのは……」

「君が望むなら、いつでも家庭を築く準備ができているということだ」

そう言いながら、戸籍簿を取り出した。

江口晗奈は唇を噛んで:「昨夜、家に帰ったの?」

「うん」

「ご両親には私が妊娠したことを?」

「知らない」

「これ、盗んできたんじゃないでしょうね?」

「……」

樱庭司真は首を振った。「君の同意なしに、誰にも言うつもりはない」

「前回会った時に分かったと思うけど、母は君のことをとても気に入っていた。もし両親が知ったら、すぐに飛んでくるだろう。たとえ口では子供を産むように勧めなくても、無意識のうちにプレッシャーをかけることになる……」

「君を困らせたくないし、道徳的に縛りたくもない」

「僕と一緒になるかどうか、子供を産むかどうか、全て君の心に従って決めてほしい」

「僕が望むのは、君がいつも幸せでいることだけだ」

江口晗奈はずっと分かっていた、樱庭司真は人を甘やかすのが上手いということを。

予期せぬ妊娠がもたらした戸惑いが、一瞬にして霧散したかのようだった。

温かい感覚が全身を包み込んだ。

彼女は突然思った:

結婚は、そんなに怖いことじゃないかもしれない。

「晗奈」まだ膝をついたままの樱庭司真が、「君は……」

「僕と結婚してくれますか?」

彼の声は普段よりも低く、まるで勇気を振り絞ったかのようだった。

江口晗奈には分かった、彼がとても緊張していることが。

わずか数秒が、

一年のように長く感じられた。

二人は病院近くの朝食店にいた。時間が遅かったため、客はほとんどいなかった。

店主と店員だけが、じっと二人を見つめていた。

プロポーズというのは……

彼らにとって、珍しい光景だった。

樱庭司真は本当に彼女に断られるのが怖かった。この子供の存在も予想外だったが、もしこの子のおかげで彼女と結婚できるなら、まさに自分の幸運の星だと言えるだろう。

「もし結婚は早すぎると思うなら、僕は……」

「待つ」という言葉が口から出る前に、江口晗奈は笑いながら手を差し出した。「このリングのデザイン、とても素敵ね。着けてみたらどうかしら?」