「手はどうしたの?」松本雨音は彼の手の甲が真っ赤になっているのを見て、テーブルの上に散らばった水跡と湯気の立つコップに気づいた。「火傷したの?」
「大丈夫だよ、少し火傷しただけだから」
「少しって?」松本雨音は両足の痛みも忘れ、彼の手首を掴んで洗面台まで連れて行き、冷水を出して彼の手を当て、水で何度も洗い流した。
室内は暖房が効いていて、彼女はロング丈のニットワンピースに着替えていた。ミルクホワイトの生地から覗く細く白い足首が、不安そうな表情と相まって印象的だった。
「どうして気をつけないの?もう子供じゃないのに」
「お正月明けの仕事に支障が出たら大変だわ」
……
松本雨音は彼の手の甲の火傷で赤くなった大きな範囲を見つめ、眉をひそめた。二人の距離がどれほど近いかにも気づかず、ただ彼の声が耳元で響くのを聞いていた。「雨音」
その呼び方は、親密さを感じさせた。
意図的に低くした声は、磁性を帯びて魅惑的だった。
その声が耳に入り、体の半分がしびれるような感覚に襲われた。
そのとき、彼女は二人の距離があまりにも近いことに気づいた。体の半分が密着し、盛山庭川は片手で水を流しながら、もう片方の手を洗面台に突いて、彼女を前に閉じ込めるような体勢を取っていた。
一瞬、
心臓の鼓動が制御不能になった。
「火傷用の軟膏がないか探してくる」松本雨音は彼を押しのけ、まるで逃げるように、つま先立ちで上の戸棚から薬箱を探し始めた。しかし、盛山庭川は彼女の後を追うように近づいてきた。
「なぜ逃げるんだ?」
「逃げてなんかいないわ。ただ薬を探しているだけ」
松本雨音は薬箱を開けた。祖母が長年病気に苦しんでいたため、家には薬が多く揃っていた。彼女は何故か落ち着かず、薬箱を乱暴に探り、薬をごちゃごちゃにしてしまった。まるで今の彼女の心境のように。
「秋月策人のことをどう思う?」盛山庭川が突然尋ねた。
松本雨音は数秒間固まった。
どうしてまた秋月策人の話?
彼女には、なぜ盛山庭川が突然彼のことを聞いてくるのか分からなかった。二人が知り合いだということは知っていたし、人の悪口は言えないと思い、「彼は、悪い人じゃないわ」と答えた。
「時々言動が軽く見えることもあるけど、女性に対してはとても紳士的よ」
盛山庭川はその言葉を聞いて、何故か胸が詰まる思いがした。