430 触れ合い、気になる、好きなの?

夜になり、帝都は今年の初雪を迎えた。

盛山庭川が隣を見ると、深夜になっても松本雨音は眠る気配もなく、書類の入った封筒を開けては何度も見つめていた。

「松本さん、ご安心ください。この書類の全ての条項は弁護士たちが何度も検討を重ねたものです。今夜は都内全域で最高の弁護士たちがあなたのために働いています。問題はありません」と山下助手は笑顔で言った。

彼は当初、松本雨音と松本家は関係を断絶する程度だと思っていた。

まさか彼女が松本家の全財産を狙っているとは思いもよらなかった。

「盛山若社長には芝居に付き合っていただき、感謝しています」松本雨音は盛山庭川に向かってお礼を言った。

彼女は雪に濡れていたが、払い落とさなかった。車内の暖気で服と髪の間で溶けて水になっていた。

盛山庭川は微笑むだけで、ティッシュを渡した。「雪解け水が付いていますよ」

「ありがとうございます」

松本雨音は見えないまま、適当に拭いた。

髪にまだ水滴が付いているのに気づかないうちに、盛山庭川が手を伸ばしてきた。彼女が気づいた時には、彼の指先が既に彼女の髪に触れ、髪に付いた雪解け水を払い落としていた。

雪解け水は冷たかったが、彼の指先は温かかった。

冷温が交わって頭を撫でる……

火花が散るような感覚。

頭皮が引き締まり、思わず体全体も緊張した。

車内の暖房は十分効いていて、顔に当たる温風で、なぜか体が熱くなり、胸が高鳴った。

このような仕草は、

女性にとって、十分に親密な行為だろう。

山下助手はバックミラー越しに二人を観察していた。

顔中に興味津々の表情を浮かべて。

何をしているんだ?

髪に触れるなんて、ドラマの展開なら、次は頭を引き寄せてキスするはずだ!

盛山若社長、躊躇わないで、行っちゃえばいいのに!

年末パーティーにも出ずに、松本さんの味方をしに来るなんて、これが愛じゃないなら何なんだ?

「ありがとうございます。私自身でやります」松本雨音は車の端の方に少し移動し、適当に手で髪をかき上げた。

「髪が濡れていると風邪を引きやすいですよ」盛山庭川は既に手を引いていた。

松本雨音は黙って頷いたが、温風に当たって体中が不快なほど熱くなるのを感じていた。

「これからどうするつもりですか?会社を引き継ぐんですか?」盛山庭川は何気なく尋ねた。