年末が近づき、外は人と車で混雑し、各レストランは満席だったため、おばあさんは盛山庭川を見て、自ら提案した。「うちで食べませんか?私が料理を作りますよ」
「それは……」庭川は躊躇した。
「私の料理が美味しくないと思うの?」
「お体が良くないので、無理をさせたくないんです」
「大丈夫よ」
こうして、盛山庭川は家に上がることになった。
入る前に、仕事の電話があると言い訳して、団地の入り口のスーパーで贈り物を買った。年末なので手ぶらでは良くないと思ったのだ。戻ってきたとき、マンションの廊下で松本雨音が男と話しているのを見かけた。
「……あの夜のことは、あまり覚えていないので、彼女の潔白を証明することはできません」
「でも羽沢さんによると、その薬はあなたのグラスに入れられたはずなのに、なぜ田中社長が飲んでしまったのでしょうか?」
松本雨音は小さく笑った。「それは私にもわかりません」
「先ほどのお話は録音させていただきました。もしこれ以上私に付きまとうなら、警察に通報します。私には時間もお金もありますが、弁護士のあなたは貴重な時間を無駄にはできないでしょう」
男は仕方なく、「失礼しました」と言って
急いで立ち去った。
松本雨音が振り向くと、盛山庭川が手に荷物を持っているのを見て、頭が痛くなった。「買い物に行くと思っていたので、追いかけて止めようと思ったのに、羽沢彩乃の弁護士に止められてしまいました」
「あなたが知らないかもしれませんが、事件の翌日、田中鹏は羽沢彩乃を睡眠薬を使った強姦で告訴しました。彼女は私に自分の潔白を証明してほしかったようです」
盛山庭川の表情は変わらなかった。
この件は彼が仕組んだことで、誰よりも詳しく知っていた。
「あの夜、薬を田中社長に替えたの?」庭川は興味深そうに尋ねた。
松本雨音は笑い出した。「いいえ」
「そんな器用なことできません。薬の入ったお酒は最後まで私のグラスにありました。少しだけ飲んで、こっそり吐き出しただけです」
「でも田中社長は薬を飲まされて、体が熱くなったと言っていましたが……」
「それは単なる欲望のせいで作った言い訳です。それにあの夜はたくさんお酒を飲んでいたので、体が熱くなるのは当然です」
彼は単なる好色漢で、あの夜は薬の件がなくても、羽沢彩乃が誘惑したと言いがかりをつけたはずだ。