彼女がこれを用意したのは、松本雨音が妊娠しないようにするためだった。
もし田中社長が本当に彼女のことを好きになって、子供まで出来てしまったら、将来的な脅威になりかねない。
「松本奥様、あなたが私にこれを渡したのは、私と関係を持ちたかったからでしょう?今さら知らないふりをするのは遅すぎませんか?それに、さっきはあなたも楽しんでいましたよね……」
「この畜生、でたらめを!」
羽沢彩乃は彼に殴りかかろうとした。
しかし田中社長に押しのけられ、「私は今日、松本さんとお見合いに来たんです。もし私たち二人が結ばれていたら、あなたは義理の母になるはずでした。どこの義理の母が婿にそんなものを用意するんですか」
「私は……」
羽沢彩乃は完全に言い訳が出来なくなった。彼女は夫の方を向いて、「和彦、私を信じて、事態は決してそうじゃないの」
しかし、彼女を待っていたのは、松本和彦の激しい平手打ちだった!
彼は盛山誠章のところで侮辱を受け、突然浮気されたと知り、しかもこれほど大勢の人に見られ、男としての尊厳が傷つけられ、面目を失った。
そしてさらにもう一発の平手打ち!
「羽沢彩乃、この淫売め、よくも浮気なんかできたな!」と怒鳴った。
「違うの、事態は決してそうじゃないの」彼女は焦りに焦った。
松本雨音は諦めたように言った:「お父さん、最近うちの商売が上手くいってないから、羽沢叔母は破産を恐れて、自分の逃げ道を探していたんじゃないですか。私のお見合いを手配すると言って、あんなに熱心だったのも、本当の目的は別にあったってことですね」
この理由は、確かに説得力があった。
「不倫から這い上がってきた女に、廉恥心なんてないわよね。松本家は最近誰かの逆鱗に触れたみたいで、商売がうまくいってないみたいだし」
「それにしても娘のお見合い相手を誘惑するなんて」
「田中社長がお金持ちだからでしょう。あの年で、よくもそんな恥知らずな真似を」
……
周りの人々の議論が飛び交い、一言一句が心を刺すように、彼女を晒し者にしようとしていた。
羽沢彩乃は松本雨音を睨みつけた。「あなたが私を陥れたのね、薬を盛ったのは!」