彼の胸の中に転生する

痛みが時枝秋の心身を引き裂いていた。

混沌の中で彼女は突然目を見開き、目に映ったのは男の拡大された端正な顔だった。

彼の顔には光と影が交錯し、冷酷さと残虐さと決意が浮かび上がっていた。

藤原修だ！

なぜ藤原修がここに？

彼女を救おうとして死んだはずじゃなかったの？

そして彼が死んだ時、時枝秋は初めて気付いたのだ。婚約者とその不倫相手の女にどれほど酷い目に遭わされていたか、そして自分を本当に愛していたのは、ずっと避けてきた藤原修だけだったということを。

彼女は思わず両手で彼の腕に触れ、その実感が心を刺すように彼女を目覚めさせた。

既視感のある光景が次々と脳裏に浮かび、鋭く鮮明だった。

これは夢じゃない？

彼はまだ生きている！

私もまだ生きている！

つまり、これは転生したということ？

彼が初めて彼女に触れたあの夜に転生していた？

そして彼女と彼が完全に決裂したあの夜に！

思わず涙が零れ落ち、時枝秋は藤原修を強く抱きしめていた。

神様が一度だけ転生するチャンスをくれたので、もう二度と愚かな選択はしない！

冷たい涙が藤原修の肌に落ち、すでに暗く渦巻いていた瞳の奥に、さらなる怒りの炎を灯した。

「俺と一緒にいることが、そんなに生きる価値もないほど辛いのか？」

冷たい言葉が寒風とともに時枝秋の耳に届いた。

「違う、違うの…」時枝秋は泣きすぎて言葉にならなかった。

この言葉は本来、死地から生還した喜びだったのに、藤原修の耳には、明確な拒絶として響いた！

もう一度！

数え切れないほどの拒絶！

舌を頬の内側に押し付け、彼は歯を食いしばって立ち上がり、時枝秋を見ることもなく身を引き、高貴で冷たい背中には深い寂しさが漂っていた。

「藤原修！」時枝秋は彼に手を伸ばした。

しかし失望の極みにある男は、振り返ることもなく大股で部屋を出て行ってきた。

時枝秋の涙に濡れた顔に笑みが浮かんだ。大丈夫、彼女は戻ってきたのだから。

藤原修に私の気持ちを分かってもらうために、たっぷり時間があるはずだわ！

「時枝秋！大丈夫？藤原修がこんなひどいことするなんて！」ドアが開き、木村雨音が急いで入ってきて、不安そうに時枝秋を見つめていた。

彼女は乱れたシーツと時枝秋の首筋に残された痕を見て、目に隠しきれない嫉妬と悔しさを浮かべていた。

木村雨音、時枝秋の前世での一番親しい友達。

時枝秋が時枝家から血を引いていないことが発覚し、家から追い出され、婚約者との婚約を解消させられそうになった時、ずっと彼女の側にいて、応援して、婚約者の心を掴むようにしてくれた。

しかし彼女の本当の目的は、それを利用して藤原修に近づき、藤原家の奥様になることだった。

そう思うと、時枝秋は笑みを浮かんできた。まだ自分を純真な少女だと思っているの？

いいえ、純真な少女はもう死んでしまった！

木村雨音の前に立っているのは、復讐に燃える狼と狡猾な狐だけだ。

「時枝秋、藤原修は本当にひどすぎるわ。何度も何度もあなたの意思を無視して、強制していた。今日も無理やり入籍しようとして！早く身分証明書と戸籍謄本を私に預けてね。私が保管しておくから。そうしないと、法律上の妻にされてしまうわ！そうなったら離婚するのも大変よ！」

時枝秋は頷き、パッケージを取り出して木村雨音に渡しながら言った。「雨音、全てお願いね！」

木村雨音は物を受け取り、内心得意げになりながら口では「私に任せて、安心してね！」と言った。