「木村さん、現在私たちには一つの契約枠しかありませんので、ぜひ当社と契約していただきたいと思います」岡元経理は木村雨音に対して大きな好感を示した。
「私ですか?」木村雨音は慌てて言った。「岡元経理、誤解されているようです。実は協力の機会を求めているのは、私の隣にいるこの友人なんです」
「そうです、私です」時枝秋はすぐに協力的に言った。
岡元経理は笑いながら言った。「あなたの資質が当社により適していると考えています。当社に来ていただければ、約束したこれらのリソースは全てあなたに提供されます」
彼は書類を一部、木村雨音の前に押し出した。
時枝秋は先に手に取って見ながら、傍らで小声で言った。「このリソースは本当に素晴らしいわね。今後5年間、年に2本のドラマと1本の映画、少なくとも3つのCM契約が保証されているなんて…」
彼女の声には羨望が満ちていた。
そして憧れも。
澄んだ瞳で岡元経理をまっすぐに見つめ、チャンスをくれるよう懇願していた。
しかし岡元経理は彼女を完全に空気のように扱い、木村雨音しか目に入っていなかった。
木村雨音は心が大きく揺れていた。
この会社は、横澤蕾の側で長い間努力してようやく得られた情報で、横澤蕾が間に入って取り持ってくれたからこそ、岡元経理とマネージャーが会ってくれることになったのだ。
元々は時枝秋と藤原修の関係を引き裂くためにこの機会を利用しようと思っていただけなのに…まさか自分が気に入られるとは思わなかった。
彼女は先輩アーティストたちの話をたくさん聞いてきた。友人のオーディションに付き添ったら、友人は落ちて自分が選ばれたという伝説のような話を。
そしてそれは大きな誘惑でもあった。
彼女は現在まだ所属事務所がなく、小林凌の推薦と保証のもと、唯一フリーランスの立場で番組に参加している。
小林凌は彼女が『國民シンガーソングライター』で輝きを放った後、より良い契約条件で所属させられることを期待して待っていた。
しかし今や彼女と小林凌の間には大きな溝ができ、ラッキーサインまで取り上げられてしまった。これからまだ所属のチャンスはあるのだろうか?
彼女は将来に対して不安でいっぱいだった。
そんな中、岡元経理の彼女への評価は、まさに先の見えない未来に一筋の光を投げかけるものだった。