二人の審査員は驚きを隠せなかった。
時枝秋の音楽スタイルと衣装が、なぜこんなにも不統一なのか?
本当に自暴自棄になって、小林凌に告白するためだけに、最後のステージで壮絶な姿を見せるつもりなのか?
ドラムのビートと共に、時枝秋は身につけていたロングドレスを引き剥がした。
ロングドレスの下には、なんとスタイリッシュなデニムの衣装が隠されており、彼女の長い脚としなやかなウエストラインが浮き彫りになった。
観客全員の第一印象は「うわ、なんて完璧なスタイルだ!」だった。
顔は隠されていても、このような美しいスタイルは瞬時に皆の視線を捉えた。
そして、時枝秋が歌い出すと、観客の耳目は一斉に釘付けになった。
音楽は耳慣れないものだったが、十分な魅力を持っており、そして歌詞は……
皆が待ち望んでいた歌詞が、時枝秋の口から歌い出された:「
失せろ、お前の偽りの甘さ
失せろ、私のグズグズした執着
失せろ、恋の甘い言葉
失せろ、読めない駆け引き
記憶が警告する、お前を完全に忘れろと
消えろ、私を欺いた毒よ!
失せろ、失せろ、失せろ!」
抒情的なバラードではなく、発散するような爽快なアップテンポの曲で、時枝秋がこれまで見せたことのないスタイルだった。
会場の小林凌のファンは一瞬呆然としたが、誰かが先陣を切って拍手し始めた。
その後、より多くの拍手が重なり合った。
紺野広幸を筆頭に、審査員たちも両手を上げて拍手した。
紺野広幸は、時枝秋がこれほどの爆発力を持っているとは予想していなかった。彼は元々、彼女が歌詞に込められた力強さを表現できるか心配していたのだ。
ただ小林凌の表情だけは、一瞬の驚きが走った後、長年の訓練で培った自制心で、いつもの笑顔を保ち、極めて上品な態度を保っていた。
……
園田一帆は自分が救われたことを知った。
時枝秋が最初の一節を歌い出した時から、彼にはわかっていた。
旦那様の三日間も溜め込んでいた殺気は、時枝秋の歌詞と共に、静かに消え去っていった。
彼はようやく真剣にコメント欄を見る勇気が出た。
コメント欄は連続した「????」で埋め尽くされていた。
周知の通り、この時枝秋のパフォーマンスは、生放送の公開コンテストであり、また皆が予想していた小林凌への公開告白の場でもあった。
そういう認識があればこそ、皆はより一層衝撃を受けた。
「なぜ?石ちゃんはなぜこんなことを?」
「これは小林凌への決別なの?」
「お兄様にこんなことするなんて!」
「ありえない!私のお兄様はこんなに素敵なのに、石ちゃんが諦められるわけない!」
「実は、この曲いいじゃん。元カレに聴かせたいわ!」
「『失せろ』のダウンロードリンク求む!」
番組がまだ放送中にも関わらず、時枝秋が作詞作曲・歌唱を手がけた『失せろ』は、音楽配信プラットフォームで瞬く間にチャートを席巻し、検索数・ダウンロード数ともに首位を獲得!
番組開始以来の最高記録を打ち立てた!
その夜、生放送が終了。
時枝秋は初めて及第点ギリギリを行き来する運命から抜け出し、順位は15位まで上昇し、30人の参加者の真ん中に位置した。
これも小林凌のファンが、事前に他の参加者に大量の投票を入れ、意図的に時枝秋の票数を抑えたためで、そうでなければ彼女のパフォーマンスなら少なくともトップ10入りしていただろう。
小林凌は暗い表情で楽屋に戻った。
マネージャーが後ろから慰めるように言った:「小林君、気にしないで。たかが一曲だよ!」
木村雨音も小声で言った:「そうよ、たった一曲じゃない。従兄弟、何も影響ないわ」
「全員出て行け!」小林凌はドアを指差した。
彼ももちろん、これがただの一曲に過ぎないことを知っていた。時枝秋も彼の人生における過去の一ページに過ぎないのだから。