今回の出演順番は抽選で決められた。
木村雨音と時枝秋は運が良く、十一番と十二番の順番を引き当てた。
二人はマスクを付けて、舞台裏で待機していた。
他の出場者たちは順番に登場していった。
……
番組の舞台裏。
マネージャーは、メイクをしている小林凌に付き添いながら、笑顔で言った。「凌さん、今夜の姿は本当にかっこいいですね。見た人は思わずよだれを垂らしてしまうかもしれませんよ。」
小林凌は淡々と微笑んで言った。「大勢の前では、彼女も自重するでしょう。」
たとえ時枝秋が番組側との約束を無視して、自分に何かしようとしても、背後に会社とマネージャーがいる以上、小林凌は何も心配していなかった。
彼と時枝秋の関係はとうに終わっており、もう二度とやり直すことはないだろう。
そもそも、当時の小林家と時枝家の婚約も、ただの長老たちの一時の思いつきに過ぎなかった。
どんなに言い訳をしても、彼が守るべきは時枝家の本物のお嬢様である時枝雪穂との婚約だけだった。
偽物のお嬢様?
小林凌の唇の端に嘲笑いの笑みが浮かんだ。時枝秋が少しでも気を利かせていれば、彼もそう早く心変わりすることはなかったかもしれない。
しかし、この世に「もし」は存在しない。
……
浅湾別荘。
藤原修の書斎。
今、高画質の大画面には、すでに『國民シンガーソングライター』の放送チャンネルが選ばれていた。
他の出場者のパフォーマンス中だったため、一時的に音声はミュートされていた。
藤原修は書類に没頭し、山のような書類を処理していた。
園田一帆は傍らに立ち、息を殺しながら、目の端で画面をちらりと見ていた。
大島執事がお茶を持ってきて、音を立てないように気を付けながら退室した。
二人のメイドがこっそりとエンターテイメントチャンネルを開いているのを見て、大島執事は目を見開いて睨みつけ、二人は慌てて画面を消した。
園田一帆は時々大画面に目を向けていた。
時枝秋はまだ登場していなかった。
しかし、コメント欄には既に彼女の名前が溢れていた。
当然、疑問の声と罵倒ばかりだった。
「石ちゃんなんて何様のつもり?私たちの凌お兄様に擦り寄るなんて」
「そうよ、まさにトイレの臭い石ころね!」
「残念ながら出場者への投票しかできないけど、マイナス点数をつけられたら、石ちゃんにマイナス点で追い出してやるのに!」
「雨粒ちゃんが登場したわ!私の票は全部雨粒ちゃんに入れるわ!」
雨粒ちゃんとは木村雨音のことで、時枝秋を徹底的に貶めながら小林凌の話題に便乗することで、彼女の得票数は一時トップに躍り出た。
ついに、時枝秋の出番が来た。
園田一帆は目も耳も持っていなければよかったと思った。
しかし今はそうもいかない。
藤原修が彼を一瞥すると、彼は震える手でリモコンを取り、音量を上げた。
……
時枝秋が登場すると、木村雨音は彼女にOKサインを送り、緊張しないようにと示した。
時枝秋はもちろん緊張などしていなかった。
彼女はマイクを手に取り、ステージに向かった。
この時、会場の観客たちは思わず口をへの字に曲げた。
紺野広幸は興味深そうにステージを見つめていた。
他の二人の審査員は肩をすくめ、明らかに時枝秋が歌詞を通じて小林凌に告白するチャンスを掴むだろうと考えているようだった。
小林凌の表情には穏やかな優しい笑みが浮かんでいた。
時枝秋のこのような行動に、会社全体も番組側も反対していないのは、明らかに彼女を利用して番組の初期の話題性を高め、小林凌の人気を固めることを望んでいるからだった。
石ちゃんは、本当に誰もが踏みつけることのできる石ころになってしまったのだ。
音楽が始まり、一筋のスポットライトがステージ中央の時枝秋を照らした。
彼女は優しく美しいロングドレスを着ていて、最初の印象では叙情的なスローバラードを歌うように思われた。
しかし、次の瞬間、音楽が一転し、激しいドラムビートが鳴り響いた。