誰も落ちこぼれを妬むことはない。
木村雨音は近くに移動し、時枝秋の話を聞こうと耳を傾けた。
彼女は時枝秋がどんな歌詞を書くのか知りたかった。
残念ながら、しばらく聞いても詳細は聞き取れなかった。
夜になると、出場者たちは番組に残り、様々な面で学習し、自分の能力を高める。
時枝秋だけがいつものように帰っていく。
彼女はやっと藤原修の信頼を得たばかりで、それを台無しにするわけにはいかない。
出場者の中には、当然白眼を向ける者もいた。
時枝秋は気にせずに歩き出した。前世で経験したことに比べれば、これらは子供の遊びのようなものだった。
木村雨音は急いで駆け寄り、彼女の腕を取った。「時枝さん、歌詞は書けた?見せてもらってもいい?」
「書けたわ」時枝秋は手際よく一部を渡した。「私はまだ練習しないといけないの。あなたも準備が必要でしょう。早く戻って」
木村雨音は時枝秋が去るのを待って、急いで中身を開いた。
切なく美しい歌詞で、果てしない愛慕と孤独を語り、特に「暗い夜空を見つめ、彗星のように降り注ぐあなたを待つ、哀れな私に落ちてきて」という一節は胸に迫るものがあった。
これは間違いなく全て小林凌に向けて歌うものだ。
だから木村雨音は急いで藤原修に送ることもなく、公開することもしなかった。
歌詞は、ライブで歌われる感情こそが最も力強いのだから!
……
三日間、時枝秋と藤原修は平穏に過ごした。
しかし園田一帆と大島執事から見れば、これは嵐の前の静けさに過ぎなかった。
そしてその火種となるのが、『國民シンガーソングライター』の第一回ライブパフォーマンスだった。
以前の収録では、時枝秋はあらゆる方法で小林凌の注目を集め、様々な愛情表現をしていた。
それは番組を話題にし、小林凌の人気を更に押し上げることに成功した。
第一回ライブパフォーマンスで、時枝秋がこの絶好の機会を逃すはずがない。
これは園田一帆と大島執事を心配させた。
時間が近づくにつれて、彼らはますます緊張し、藤原修の身に漂う強い殺気を感じ取ることができた。
戦いは、一触即発の状態だった。
時枝秋もそれをよく分かっていた。藤原修は彼女のライブパフォーマンスを待っていた。
そして彼女のステージが、彼の今後の態度と、彼女と彼の関係を決定づけることになる。
ネット上では小林凌のファンたちが既に罵声の嵐を巻き起こし、時枝秋を便所の詰まりと呼んでいた。
番組が彼女のために作ったツイッターアカウント「石ちゃん」には、既に大量のアンチファンが集まっていた。
木村裕貴でさえ手の施しようがなかった。
制御できない。
制御する気もない。
……
ついに、『國民シンガーソングライター』はその日を迎えた。
三十人の出場者が順番にステージに上がり、自作の歌を歌い、会場のファンとライブ配信を見ているファンの投票を受ける。
投票の順位が、次のチャンスを直接決定する。
時枝秋の順位はずっと平凡で、毎回勝ち残りのボーダーラインで揺れ動いていた。
一方、木村雨音は安定した歌唱力で常に二位を維持し、少し名が知られるようになっていた。
特に彼女の小林凌との交流は、常に節度があり分別があって、小林凌のことを小林先生と呼び、小林凌のファンたちから好感を持たれていた。
今回、時枝秋の大量のアンチファンたちは、既に動き出す準備を整えていた。
時枝秋がステージに上がり、また彼らの兄を誘惑しようものなら、彼らは惜しみなく他の出場者、例えば木村雨音に投票し、時枝秋を最下位にしようと企んでいた。