時枝秋は知っていた。このプログラムで、木村雨音は既に脱落していたが、彼女の影響力は至る所に残っていた。
彼女は確かにあらゆる場所に種を蒔き、着実に根を張っていた。
しかし……この状況は、長くは続かないだろう。
紺野広幸は強要できず、時枝秋を連れて脇に寄り、話をしている田中華の方へ向かった。
田中華は実力のある歌手で、歌唱力も良く、時枝秋とも良い相乗効果を生み出せるはずだった。
田中華は以前紺野広幸の世話になっていたため、彼に対して特に丁寧な態度を取った。「紺野先生!」
彼女は次々と昔話をし、さらに故郷から持ってきた特産品まで手渡した。「紺野先生、本当は今晩お伺いするつもりでした。こんなに早くお会いできるとは思いませんでした。これ、ぜひ受け取ってください!」
彼女の態度は非常に良く、完璧なものだった。
しかし時枝秋との協力の話を聞くと、やはり難色を示した。「紺野先生、私は既に選手を決めています。」
彼女は有名になってから、自分の評判を非常に大切にしていた。
そして時枝秋の評判は最悪で、よくトラブルを起こすと聞いていた。さらに……彼女の作詞作曲は盗作だという噂もあり、気が滅入った。
そのため、番組からのオファーを受けた時、田中華は時枝秋との協力を拒否する追加契約を結んでいた。
今となっては契約を破ることもできない。
紺野広幸も無理強いはできなかった。
夏目休の方は、既に文岩薫里の側に行っていた。
他のゲストたちも文岩薫里の周りに集まっており、時枝秋のように冷遇されている選手は少なくなかった。
「ローズちゃんは開始以来ずっと一位を維持していて、彼女と組みたがるゲストが多いのは当然です」と、傍らの選手が小声で話していた。
「私だって彼女を選びたいわ。創作力が高くて、歌唱力も安定していて、しかもトラブルを起こしたことがない、とても誠実な人だもの。それに、この前偶然彼女の素顔を見かけたんだけど、本当に超絶美人だったの。しかもすっぴんよ」と、別の選手が声を潜めて言った。
「わぁ、羨ましい。これからきっと彼女が一番いい仕事をもらえるわね」
ゲストたちが皆彼女を選びたがるのも無理はない。
紺野広幸は時枝秋を慰めた。「番組側は必ず全ての選手にサポートゲストを割り当てるはずです」
「分かっています」時枝秋は頷いた。