しかし、彼は結局何もせず、ただそのように静かに鑑賞し、大切にしていた。
……
時枝秋は翌朝目覚めると、木村裕貴から送られてきたLINEを見て、「たまたま見かけただけよ」と返信した。
木村裕貴が信じるはずがない。
彼はネット中を探し回ったが、どこにも資料は見つからなかった。
博物雑誌というのは特定の個人ではなく、複数の専門家チームで構成されているからこそ、権威ある解説ができるのだ。
たまたま見かけた?時枝秋はいったいどこでたまたま見かけたというのか?
しかし、木村裕貴は口角を上げた。この仕事に、今から興味が湧いてきたのだ!
時枝秋は短髪に変え、赤司錦の姿に扮して、今日は藤原千華の傷の回復具合を診に病院へ行く日だった。
彼女はすぐに出かけ、病院へ直行した。
藤原千華は看護師と楽しそうに会話しながら、目は病室のドアの方を絶えず見やっていた。「赤司先生はまだ来ないのかしら?」