時枝秋が戻ると、LINEは鳴り止まず、舞踊家たちからのメッセージが次々と届いていた。
彼女は重要なものだけ返信して、スマートフォンをしまった。
マネージャーの車が出発する時、文岩薫里の車も丁度出発するところだったのが目に入った。
木村裕貴は既に状況を把握しており、彼女に伝えた。「文岩薫里が先ほど日本舞踊協会の入会申請を通過したそうだ」
「なるほど」時枝秋は頷いた。これだけの大掛かりな動きをしているのを見ると、文岩薫里はかなり重要視しているようだった。
木村裕貴は文岩薫里の本心を見抜いていた。「彼女は『國民シンガーソングライター』で優勝したものの、どこか正当性に欠けるところがある。だから何かと君を押さえつけようとしているんだ」
時枝秋は笑った。「好きにすればいい」
木村裕貴も笑みを浮かべた。今の時枝秋は文岩薫里に押さえつけられる隙など全くないし、仮にあったとしても、自分が文岩薫里と安藤誠を成功させるわけがない。