第214章 新曲で圧倒

時枝秋が戻ると、LINEは鳴り止まず、舞踊家たちからのメッセージが次々と届いていた。

彼女は重要なものだけ返信して、スマートフォンをしまった。

マネージャーの車が出発する時、文岩薫里の車も丁度出発するところだったのが目に入った。

木村裕貴は既に状況を把握しており、彼女に伝えた。「文岩薫里が先ほど日本舞踊協会の入会申請を通過したそうだ」

「なるほど」時枝秋は頷いた。これだけの大掛かりな動きをしているのを見ると、文岩薫里はかなり重要視しているようだった。

木村裕貴は文岩薫里の本心を見抜いていた。「彼女は『國民シンガーソングライター』で優勝したものの、どこか正当性に欠けるところがある。だから何かと君を押さえつけようとしているんだ」

時枝秋は笑った。「好きにすればいい」

木村裕貴も笑みを浮かべた。今の時枝秋は文岩薫里に押さえつけられる隙など全くないし、仮にあったとしても、自分が文岩薫里と安藤誠を成功させるわけがない。

学校に戻ると、午前の授業は既に終わっていた。

みんな自習中で、大半の生徒が黙々とテスト問題を解いていた。

時枝秋の机の上は何もなく、がらんとしていた。

前の席の男子生徒が大量のテスト用紙を渡してきた。「時枝さん、これ。この二日間で先生が配ったやつ。僕が預かっておいたんだ」

「ありがとう」時枝秋にとってはあまり意味のないものだったが、受け取った。

その男子生徒は少し照れくさそうに、白い歯を見せて笑った。以前、小林佳澄が掃除当番の時に時枝秋のテスト用紙を全部処分しようとしたのを、彼が保管しておいてくれたのだ。

しばらくして、その男子生徒がまた何かを差し出してきた。ごそごそと音を立てながら、今度はノートを渡してきた。高校三年生の必須科目の間違えやすい問題をまとめたものだった。

テスト用紙は自分のものだから時枝秋は受け取ったが、ノートは受け取れなかった。「ありがとう」

彼女はそれを返した。

その男子生徒は少し残念そうな様子を見せたが、結局何も言わなかった。

小林佳澄はこの光景を見て、軽蔑するように鼻で笑った。

午後の最初の休み時間に、誰かが時枝秋の前に来て、小声で言った。「時枝さん、ダンス本当に素敵でしたよ」

そう言うと、恥ずかしそうに走り去った。