「出発!」時枝秋の声とともに、バイクは弦を放たれた矢のように飛び出した。
藤原修は思わず時枝秋を抱きしめ、彼女の細い腰を、まるで全身を自分の胸に押し付けるかのように抱き寄せた。
そして、彼は気づいた。実は彼女を抱きしめる感覚は、彼女に抱かれる感覚に劣らないことを。
少女が彼の腕の中にいて、風が耳元で鳴り響き、彼はこのままずっと続けていけると思った。世界の果てまで。
時枝秋は素早く郊外の山道へとバイクを走らせた。山道は険しく、カーブが多かった。
しかし彼女は楽しそうに、加速、コーナリング、ドリフト、テールスライドと、すべての動作を完璧にこなしていった。
山道はますます険しくなっていった。
藤原修は彼女に注意を促すことはせず、ただ彼女をしっかりと抱きしめ、彼女の安全を守り、最後の盾となり城塞となった。