第228章 君さえいれば

「出発!」時枝秋の声とともに、バイクは弦を放たれた矢のように飛び出した。

藤原修は思わず時枝秋を抱きしめ、彼女の細い腰を、まるで全身を自分の胸に押し付けるかのように抱き寄せた。

そして、彼は気づいた。実は彼女を抱きしめる感覚は、彼女に抱かれる感覚に劣らないことを。

少女が彼の腕の中にいて、風が耳元で鳴り響き、彼はこのままずっと続けていけると思った。世界の果てまで。

時枝秋は素早く郊外の山道へとバイクを走らせた。山道は険しく、カーブが多かった。

しかし彼女は楽しそうに、加速、コーナリング、ドリフト、テールスライドと、すべての動作を完璧にこなしていった。

山道はますます険しくなっていった。

藤原修は彼女に注意を促すことはせず、ただ彼女をしっかりと抱きしめ、彼女の安全を守り、最後の盾となり城塞となった。

自由に振る舞える余地を、すべて彼女に委ねた。

バイクが山頂への最後の道のりを駆け上がったとき、時枝秋は見事な動きで、長い脚をまっすぐに地面につけ、停止したバイクのバランスを取った。

彼女はヘルメットを脱ぎ、少し息を切らせながら、薔薇色の唇を少し開き、表情には運動後の興奮が漂っていた。

彼女は振り返って笑った。「本当にリラックスできたわ」

藤原修は彼女の腰に手を添えていたが、今は手を離さざるを得ず、掌の中で指を擦り合わせ、先ほどの感触を思い返した。

二人はすでに山頂に到着していた。

この時、視界は薄暗かったが、ここに立つと定戸市の夜景全体を見渡すことができた。

時枝秋は手すりに両手をついて、足下に広がる街を見下ろした。

藤原修は彼女の隣に並んで立ち、彼女の笑顔、興奮、そして落ち着いた後の甘美な表情をすべて目に焼き付けた。

突然、時枝秋は空中を指差して言った。「見て、月よ」

現代の都市では、月を見られる機会は本当に少なく、夜はネオンに支配されていた。

たまに月が出ていても、見過ごされがちだった。

今夜は月が特別に美しく、その清冷な光は人の心を特別にリラックスさせた。

藤原修は彼女の指差す方向に目を向け、真剣なまなざしで見つめた。

どんなに些細なことでも、時枝秋と一緒なら、限りなく興味深く感じられた。

「メロディーを思いついたわ」と時枝秋は彼に言い、そっと歌い始めた。